園芸学研究
Online ISSN : 1880-3571
Print ISSN : 1347-2658
ISSN-L : 1347-2658
収穫後の貯蔵流通
チオ硫酸銀錯体とベンジルアデニンの組み合わせ処理はダッチアイリス ‘ブルーマジック’ 切り花貯蔵後の品質を改善する
豊原 憲子北村 嘉邦後藤 丹十郎
著者情報
ジャーナル フリー

2022 年 21 巻 2 号 p. 219-227

詳細
抄録

アイリスは低温であっても乾式貯蔵により開花不良が発生するとともに,観賞期間が短いことが問題となっている.一方,出荷日を調整するために貯蔵は不可欠である.開花不良を改善するgibberellin(GA3)は薬剤が高価であり,これを含む品質保持剤の導入は生産現場において限定的である.そこで,GA3の代替として,GA3よりも安価で開花不良の改善効果について報告のあるsilver thio-sulfate complex(STS)およびSTSとbenzyladenine(BA)の組み合わせが開花不良と観賞期間に及ぼす効果について調査した.STSは,5°C・5日間の低温乾式貯蔵前の処理により,正常開花率は対照(水道水)区の0%に対し60%となり花被片展開を促進したが,その効果はGA3の100%より低かった.また,STSとGA3は観賞期間を4.0日から5.0日に延長したが,その効果はBAの5.8日より低かった.一方,低温乾式貯蔵後の処理において,STSやBAは正常開花率を向上させるとともに観賞期間を延長したが,GA3の正常開花率は20%に低下し,観賞期間を延長しなかった.貯蔵前のSTSとBAの組み合わせ処理による観賞期間の延長効果は2.5日であり,それぞれの単独処理よりも延長した.STSとBAの組み合わせによる観賞期間の延長はGA3とBAの組み合わせと同等であった.エチレンによる花被片展開への影響と前処理による改善効果を調べるために,STS,BA,GA3を吸液した切り花にエチレンを10 μL・L–1の濃度で24時間暴露した.STSは86%が正常に開花したが,GA3では57%となり,乾式貯蔵前処理による結果と異なり,エチレン曝露に対してはSTSの効果が高かった.貯蔵期間を延長した実験では,STSとBAの組み合わせ処理により,5°Cで15日間の乾式貯蔵後も,高い正常開花率が保たれて観賞期間が延長した.STSの処理コストは1本5 mL当たり0.2 mM濃度で0.04円とGA3の100 ppm濃度での2.3円と比べて安価であることから,STSとBAの組み合わせ処理は経済的な処理方法であると考えられた.

著者関連情報
© 2022 園芸学会
前の記事 次の記事
feedback
Top