園芸学研究
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栽培管理・作型
ウンシュウミカンにおける高品質果実生産のための ‘シールディング・マルチ栽培’ の開発
岩崎 光徳
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2022 年 21 巻 4 号 p. 441-447

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抄録

ウンシュウミカンの高品質果実生産には,樹体に乾燥ストレスを付与するシートマルチ栽培が用いられている.しかし,根域に雨水が流入しやすい園地の形状や,根が通路に伸長することで,十分な乾燥ストレスが付与されないケースが多くみられる.そこで,排水設計した園地において,専用のS.シートで植列を囲いシートマルチ栽培を行う,シールディング・マルチ栽培(S.マルチ)を開発した.本研究は,この技術の確立と有効性を検証した.まず,S.シートの規格を決定するため,幅の異なる2種類のS.シートを用いて3か年の果実品質から有効性を検証した.その結果,幅500 mmのS.シートを用いた処理区で毎年糖度の高い果実が生産されたことから,このサイズがS.マルチに適したシートと考えられた.次に,S.マルチによる樹体への乾燥ストレスと根域の土壌水分の影響について調査した.その結果,樹体の乾燥ストレス指標である葉内最大水ポテンシャルは,S.マルチ区で高品質果実生産に適正な–0.7~–1.0 MPaに制御できた.一方,慣行のマルチ区は–0.7 MPa以上の期間が長かったことから,十分な乾燥ストレスは付与されなかった.土壌水分は,細根が多く分布する20 cm深と根域下部に当たる40 cm深を測定したところ,両深さでS.マルチ区はマルチ区に比べて発育期間を通じて低く推移した.収穫時の果実品質は,S.マルチ区の果実がマルチ区に比べて高糖度で,やや高い酸度,やや小さい果実で果皮色は赤みが強かったことから,適度な乾燥ストレスが付与されたと示唆された.以上のことから,S.マルチは慣行のマルチ栽培に比べて根域の土壌が乾燥しやすく,樹体に乾燥ストレスが付与されることで高品質果実が安定して生産されると示唆された.

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