人間科学
Online ISSN : 2434-4753
研究論文
特別支援教育における「学びの連続性」~平成29年4月告示の学習指導要領に基づいて~
阪木 啓二木舩 憲幸阿部 敬信
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2019 年 1 巻 p. 49-59

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Abstract

文部科学省は平成29年3月に幼稚園教育要領,小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領,続く4月には特別支援学校幼稚部教育要領及び特別支援学校小学部・中学部学習指導要領の改訂告示を公示した。平成19年の学校教育法の一部改正によりスタートした特別支援教育から10年が経過した今次学習指導要領の改訂では特別支援教育では「学びの連続性」の確保がキーワードとなっている。本稿では「学びの連続性」から,今次改訂の学習指導要領等を解題することによって,その背景にはインクルーシブ教育システムの構築という考え方や,「学びの連続性」を確保するために「特別支援学校(知的障害)における各教科の改善と充実」や「重複障害者等に関する教育課程の取扱いの充実」が図られていること等を明らかにした。

1. 学習指導要領の改訂

平成28年12月21日の中央教育審議会答申「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(以下「答申」という。)1)を受けて,文部科学省は平成29年3月31日 幼稚園教育要領2),小学校学習指導要領3)及び中学校学習指導要領4)の改訂告示を公示した。今次の学習指導要領等の改訂においては,次の4点が基本的な方向性であるといえる。

一つめは「社会に開かれた教育課程」という考え方である。それはこれからの教育課程は社会の変化に柔軟に向き合うことが大切であり,情報化やグローバル化といった急速な社会的変化が,人間の予測を超えて進展していることを踏まえ,子どもたち一人一人が,予測できない変化に受け身で対処するのではなく,主体的に向き合って関わり合い,その過程を通して自らの可能性を発揮し,よりよい社会と幸福な人生の創り手となっていけることを目指す必要があるからである。

二つめは「育成を目指す資質・能力」という考え方である。自立した人間として主体的に学びに向かい人生を切り開いていくために必要な「生きる力」を資質・能力として具体化し,それらを身に付けることを目指す教育課程の枠組みといえる。そして,その「資質・能力」として,次の三つの柱が示された(図1)。

図1

各教科等において育む資質・能力1)

① 「何を理解しているか,何ができるか」という「知識・技能」の習得

② 「理解していること・できることをどう使うか」という社会の変化にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成

③ 「どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか」という自分の学びをこれからの人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養

これら三つの柱は「各教科等において育む資質・能力」であり,「教科等を越えた全ての学習の基盤として育まれ活用される資質・能力」でもあり,さらには「現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の全てに共通する要素」でもある。また,三つの柱は,それぞれが独立して内在するものではなく,相互に関連した「資質・能力」であり,「教育課程には,発達に応じて,これら三つの柱をそれぞれバランス良く膨らませながら,子どもたちが大きく成長していけるようにする役割が期待されている」ものである。

三つめは,「主体的・対話的で深い学び」の実現である。学びの成果として,三つの柱に整理された「資質・能力」を身に付けていくためには,「学びの過程において子どもたちが,主体的に学ぶことの意味と自分の人生や社会の在り方を結び付けたり,多様な人との対話を通じて考えを広げたりしていることが重要」となってくる。単に受け身で「知識を記憶する学びにとどまらず,身に付けた資質・能力が様々な課題の対応に生かせることを実感できるような,学びの深まりも重要になる」。このような「主体的・対話的で深い学び」をとおして「学習内容を人生や社会の在り方と結び付けて深く理解したり,未来を切り拓ひらくために必要な資質・能力を身に付けたり,生涯にわたって能動的に学び続けたりすることができる」ようになる。

四つめは,「各学校におけるカリキュラム・マネジメントの確立」である。「カリキュラム・マネジメント」は,各学校において,教育課程・指導計画・学習指導案を有機的に結び付けることにより,各教科等の教育内容の組織化を図り,子どもたちの姿や地域の実情等を踏まえて,各学校が設定する学校教育目標を実現するために,学習指導要領等に基づき教育課程を編成し,それを実施・評価し改善していくこと」である。これを各学校が主体的に確立していくことで,「学校教育の改善・充実の好循環を生み出していくことを目指す」必要がある。

以上が,平成29年4月告示の新しい幼稚園教育要領,小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領の改訂に共通する基本的考え方の主要な点となる。

2. 特別支援学校における学習指導要領の改訂と「学びの連続性」

続いて,平成29年4月28日に,文部科学省は特別支援学校幼稚部教育要領5)及び特別支援学校小学部・中学部学習指導要領6)の改訂告示を公示した。特別支援学校学習指導要領等の改訂に係る基本的考え方も,前出の幼稚園教育要領,小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領の初等中等教育全体の改善・充実の方向性と共通しているが,それに加え,「障害のある子どもたちの学の場の柔軟な選択を踏まえ,幼稚園,小・中・高等学校の教育課程との連続性を重視」することも示されている。これは「答申」では,「近年,特別支援学校に在籍する子どもたちの数は増加傾向にあり,特に,中学校に在籍した生徒が特別支援学校高等部に入学するケースが増加している」ことから「小学校等の学習指導要領等の改訂において,各学校段階の全ての教科等において育成を目指す資質・能力の三つの柱に基づき,各教科等の目標や内容が整理されたことを踏まえ,知的障害者である児童生徒のための各教科の目標や内容について小学校等の各教科の目標や内容の連続性・関連性を整理すること」によって連続性を確保するとされている。つまり,特別支援学校(知的障害)の各教科の目標及び内容について,小学校等の各教科と同じ視点や手続きで見直し,さらに特別支援学校(知的障害)と小学校等の双方の各教科の目標及び内容を照らし合わせて,その系統性と関連性を整理するということになる。これが,小学校等と特別支援学校の「学びの連続性」を確保していくということである(図2)。

図2

特別支援学校学習指導要領等改訂のポイント(抜粋)18)

3. インクルーシブ教育システムの構築と「学びの連続性」

この背景には,平成24年7月に中央教育審議会初等中等教育分科会から示された「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」(以下,「分科会報告」という)7)がある。「分科会報告」において,インクルーシブ教育システムとは,障害者の権利に関する条約第24条にある「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system)のことであり,「人間の多様性の尊重等の強化,障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ,自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下,障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組み」のことであるとし,「共生社会の形成に向けて,障害者の権利に関する条約に基づくインクルーシブ教育システムの理念が重要であり,その構築のため,特別支援教育を着実に進めていく必要がある」ことから「同じ場で共に学ぶことを追求するとともに,個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して,自立と社会参加を見据えて,その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる,多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である。小・中学校における通常の学級,通級による指導,特別支援学級,特別支援学校といった,連続性のある「多様な学びの場」を用意しておくことが必要である」と示されている。

つまり,「分科会報告」の「日本の義務教育段階における多様な学びの場の連続性」(図3)にあるように,その基底には「通常の学級」が「ほとんどの問題を通常学級で対応」,「専門家の助言を受けながら通常学級」,「専門的スタッフを配置して通常学級」という三つの層が設けられている。その上には,「通級による指導」,「特別支援学級」,「特別支援学校」の層が設けられている。これらを必要に応じて選択し,可能になり次第,通常の学級という方向性が示されている。まさに多様な学びの場を柔軟に選択し,しかもそれは固定的ではないという。インクルーシブ教育システムの構築が,「学びの連続性」の確保の背景にあるのである。

図3

日本の義務教育段階における多様な学びの場の連続性7)

実際に,「分科会報告」のほぼ1年後となる平成25年9月には学校教育法施行令の一部改正がなされ,この改正に伴い平成25年10月には「障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について(通知)」8)が発出され,就学相談や就学先の決定の在り方が改正された。

それまでは,学校教育法施行令22条の3の別表1にある「特別支援学校就学基準」に該当する障害のある子どもは,原則特別支援学校に就学するとされ,一部例外的に「認定就学者」として,地域の小学校等への就学が認められるにすぎなかった。ところが,前出の改正により,全ての子どもが小学校等に就学することが原則とされ,就学基準に該当する子どもは「障害の状態,本人の教育的ニーズ,本人・保護者の意見,教育学,医学,心理学等専門的見地からの意見,学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する」という仕組みとなったのである。その際,市町村教育委員会は,本人・保護者に対し,十分情報提供をしつつ,本人・保護者の意見を最大限尊重し,教育的ニーズと必要な支援について合意形成を行うことを原則とした。最終的には,市町村教育委員会が決定することが適当であるというのは従来どおりの考え方であったが,小学校等へ就学することが原則とされ,就学基準に該当する子どもについては,例外的に「認定特別支援学校就学者」として特別支援学校への就学を検討することにし,その際には一層本人・保護者の意見が重視されることになった。つまり,就学において「同じ場で共に学ぶことを追求」し,「多様で柔軟な仕組みを整備」したといえよう(図4)(表1)。

図4

就学先決定の仕組みの転換8)13)

表1 「障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について(通知)」より抜粋
第2 早期からの一貫した支援について
1 教育相談体制の整備
 市町村の教育委員会は,医療,保健,福祉,労働等の関係機関と連携を図りつつ,乳幼児期から学校卒業後までの一貫した教育相談体制の整備を進めることが重要であること。また,都道府県の教育委員会は,専門家による巡回指導を行ったり,関係者に対する研修を実施する等,市町村の教育委員会における教育相談体制の整備を支援することが適当であること。
2 個別の教育支援計画等の作成
 早期からの一貫した支援のためには,障害のある児童生徒等の成長記録や指導内容等に関する情報について,本人・保護者の了解を得た上で,その扱いに留意しつつ,必要に応じて係機関が共有し活用していくことが求められること。
 このような観点から,市町村の教育委員会においては,認定こども園・幼稚園・保育所において作成された個別の教育支援計画等や,障害児相談支援事業所で作成されている障害児支援利用計画や障害児通所支援事業所等で作成されている個別支援計画等を有効に活用しつつ,適宜資料の追加等を行った上で,障害のある児童生徒等に関する情報を一元化し,当該市町村における「個別の教育支援計画」「相談支援ファイル」等として小中学校等へ引き継ぐなどの取組を進めていくことが適当であること。
3 就学先等の見直し
 就学時に決定した「学びの場」は,固定したものではなく,それぞれの児童生徒の発達の程度,適応の状況等を勘案しながら,柔軟に転学ができることを,すべての関係者の共通理解とすることが適当であること。このためには,2の個別の教育支援計画等に基づく関係者による会議等を定期的に実施し,必要に応じて個別の教育支援計画等を見直し,就学先等を変更できるようにしていくことが適当であること。
4 教育支援委員会(仮称)
 現在,多くの市町村の教育委員会に設置されている「就学指導委員会」については,早期からの教育相談・支援や就学先決定時のみならず,その後の一貫した支援についても助言を行うという観点から機能の拡充を図るとともに,「教育支援委員会」(仮称)といった名称とすることが適当であること。

4. 特別支援学校・通常の学校の在籍者の状況

(1) 近年の特別支援教育の動向:特別な支援を必要とする児童生徒の増加

特別な支援を必要とする児童生徒数の推移については,文部科学省による図5に示すとおりである。

図5

特別な支援を必要とする児童生徒数の推移9)

近年続く少子化により,義務教育段階の児童生徒数は減少傾向にある。一方で,特別支援学校児童生徒数は10年前に比べると1.2倍,特別支援学級の児童生徒数は10年前に比べると2.1倍,通級による指導を受けている児童生徒数は10年前に比べると2.4倍となっており,いずれも著しく増加傾向にあるといえる。また,平成24年の文部科学省の調査「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」10)によると,発達障害(LD・ADHD・高機能自閉症等)の可能性のある児童生徒数は小学校及び中学校の通常の学級に6.5%在籍するといわれており,特別な配慮が必要な児童生徒の数は確実に増えているといえる。

(2) 特別支援学校の在籍者の状況

文部科学省が公表している平成29年度の「特別支援教育資料」11)よりまとめた特別支援学校の在籍者の推移は図6に示すとおりである。

図6

特別支援学校の在籍者の推移11)

平成27年度と平成23年度を比べると合計数で約1.1万人の増加である。障害別でみると,知的障害において増加が一番大きく,約1.17万人の増加である。その要因として考えられているのは,特別支援学校(知的障害)におけるきめ細かな教育や卒業時の就職先への定着状況が良いといったように,特別支援学校(知的障害)の教育が保護者に評価されていることが挙げられている。また,周産期医療の著しい進歩によりハイリスクを抱える子どもの数が増えていることも関係しているのではないかともいわれている。

(3) 通常の学級通常の学校の在籍者の状況―文部科学省,特別支援教育資料よりのまとめ

1) 特別支援学級数及び在籍児童生徒数の推移―国・公・私立計―

特別支援学級の学級数と在籍児童生徒数は図7-17-2に示すとおりである。

図7-1

特別支援学級の学級数の推移11)

図7-2

特別支援学級の在籍児童生徒数の推移11)

学級数の合計は平成27年と平成17年を比べると約1.6倍の増加である。在籍児童生徒数の合計は平成27年と平成17年を比べると約2.08倍である。図7-1の小学生部分を見る限りでは,現在の小学生が中学校へ進学した後は,さらにその数量の増加が予想されるところである。この増加も先に挙げた特別支援学校(知的障害)と同様であり,特別支援学級における教育が保護者から高い評価を得られているのではないかといわれている。また,障害に対する考え方の変化もいわれることがある。知的な遅れがない障害のある子どもの存在が広く知られるようになり,障害特性に応じた適切な指導と必要な支援が求められるようになったともいわれている。

2) 通級による指導を受けている児童生徒数の推移―公立 小学校・中学校合計―

通級により指導を受けている障害種別児童生徒数は図8及び図9に示すとおりである。

図8

通級により指導を受けている障害種別児童生徒数の推移①11)

図9

通級により指導を受けている障害種別児童生徒数の推移②11)

平成27年と平成18年を比べると,総計で2倍強の増加がみられる。また,弱視,難聴,肢体不自由,病弱・虚弱については微増・微減である一方で,言語障害は増加傾向,学習障害,注意欠陥多動性障害,自閉症,情緒障害については著しい増加がみられる。平成5年に始まった通級による指導は,その後一貫して,対象となる児童生徒数は増加してきたが,平成18年には,文部科学省初等中等教育局より「通級による指導の対象とすることが適当な自閉症者,情緒障害者,学習障害者又は注意欠陥多動性障害者に該当する児童生徒について(通知)」12)が発出され,その対象に,通常の学級に在籍する学習障害又は注意欠陥多動性障害のある児童生徒が加えられたことにより,著しく増加してきている。

3) 公立小学校における学校教育法施行令第22条の3に 該当する者の数(障害種別在籍者数)

公立小学校における22条の3該当者の特別支援学級と通常の学級の在籍者数は図10に示すとおりである。

図10

公立小学校における学校教育法施行令第22条の3該当者の特別支援学級と通常の学級の在籍者数11)

「学校教育法施行令の一部改正について(通知)」13)の留意事項において,「当該視覚障害者等が認定特別支援学校就学者に当たるかどうかを判断する前に十分な時間的余裕をもって行うものとし,保護者の意見については,可能な限りその意向を尊重しなければならない」とあり,個々の児童生徒等について,市町村の教育委員会が,その障害の状態等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組みへと移行をしている。その結果もあり,公立小学校における22条の3該当者が特別支援学級や通常の学級に多数在籍する状況となっている。

(4) 学校の在籍者の状況のまとめとこれからの取り組み課題

1) 特別支援学校

特別支援学校に在籍する児童生徒数は増加傾向にあり,特に知的障害者数については著しい増加傾向にある。一方で,重複障害学級の在籍人数はやや増加,在籍率は漸減傾向にある。以上のことから,取り組み課題としてはそのニーズの高まりから,これまで同様それ以上の「特別支援学校における特別支援教育の充実」が求められるところである。また,平成29年4月に告示された特別支援学校学習指導要領等において,「特別支援学校の各学部間の学びの連続性」が改訂のポイントとして挙げられていることもあり,その確保が求められるところである。

2) 通常の学校

通常の学校の特別支援学級数とその在籍する児童生徒数は著しい増加を示している。また,通常の学級に在籍し,通級による指導を受けている児童生徒数も著しい増加を示している。さらに,特別支援学級と通常の学級に学校教育法施行令第22条の3該当者も多数在籍する状況にある。以上のことから,取り組み課題として,地域の小・中学校においてもより特別支援教育の専門的な支援を得られるように,「特別支援学校のセンター的機能」活用や,「特別支援学校と通常の学校間の学びの連続性」の確保があげられるところである。

3) まとめ

特別支援学校や小学校等の特別支援学級に在籍する,あるいは通級による指導を利用する児童生徒数は増加の傾向にある。また,特別支援学級と通常の学級に学校教育法施行令第22条の3該当者も多数在籍する状況にもある。そのためにも,「学びの連続性」の確保が強く求められるところである。

5. 特別支援学校学習指導要領等における「学びの連続性」を重視した改善

今次の特別支援学校学習指導要領等における改訂において,「学びの連続性」を重視した対応として具体的に何が改善されたのかについて述べる。

これまで特別支援学校(知的障害)の各教科は,独自の目標と内容が示されてきた。しかし,今次改訂により,小学校等と同様に三つの「資質・能力」の柱によって構造化されるとともに,段階ごとに目標が示され内容の充実が図られた。そして,改訂前は1段階であった中学部に2段階が設定された。さらに,特別支援学校(知的障害)の各教科には,改訂前までは各教科にしか設定されていなかった目標が,各教科の各段階に設定されるようになり,各段階の内容の充実も図られている。また,小学部の3段階及び中学部の2段階の目標に到達した児童生徒については,特に必要のある場合には,小学校及び中学校の各教科の内容等を一部取り入れることが可能となったのである。これは,学びの場が異なっても,三つの「資質・能力」の柱によって構造化されたことにより,特別支援学校(知的障害)小学部及び中学部と小学校及び中学校における「学びの連続性」が確保できるようになったからといえる。まさに,インクルーシブ教育システムにおける「連続した多様な学びの場」を教育内容のレベルで実現したものといえる。

また,「重複障害者等に関する教育課程の取り扱い」も「学びの連続性」を重視した充実が図られている。「分科会報告」において「各教科等の目標・内容を,取り扱わなかったり,前各学年の目標・内容に替えたりした場合について,取り扱わなかった内容を学年進行後にどう履修するかなど,教科等の内容の連続性の視点を大切にした指導計画を作成するための基本的な考え方を更に整理して示す」や「他の障害と知的障害を併せ有する者に対して,小・中学校等の各教科の目標・内容を知的障害のある児童生徒のための各教科の目標・内容に替える場合について,教科の内容の連続性の視点から,基本的な考え方を整理して示す」とされており,これを踏まえて,今次改訂では,例えば「障害の状態により特に必要がある場合」として弾力的に教育課程を編成できることについて6項目に分けて規定しており,以前の特別支援学校学指導要領等に比べると充実した記述となっている。

ただし,この取り扱いについては,あくまでも文末表現が「できること」となっていることに留意する必要がある。つまり,「学校の創意工夫を生かし,全体として,調和のとれた具体的な指導計画を作成する」上で,特別支援学校小学部・中学部学習指導要領に示されている各教科等の目標及び内容を取り扱わなかったり,替えたりすることについては,その後の児童生徒の学習の在り方を大きく左右することから,指導計画は慎重に検討されなければならないのである。それは,一人ひとりの子どもの「学びの連続性」を確保するという観点から新たに加えられていると考えることができる14)

6. 小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領における特別支援教育

平成24年の「分科会報告」を背景として,「答申」では,「第1部 学習指導要領等改訂の基本的な方向性」において,特に「教育課程全体を通じたインクルーシブ教育システムの構築を目指す特別支援教育」の節が設けられている。そこでは「小・中学校と特別支援学校との間での柔軟な転学や,中学校から特別支援学校高等部への進学などの可能性も含め,教育課程の連続性を十分に考慮し,子どもの障害の状態や発達の段階に応じた組織的・継続的な指導や支援を可能としていくことが必要である」とし,「そのためには,特別支援教育に関する教育課程の枠組みを,全ての教職員が理解できるよう,小・中・高等学校の各学習指導要領の総則において,通級による指導や特別支援学級(小・中学校のみ)における教育課程編成の基本的な考え方を示していくことが求められる。また,幼・小・中・高等学校の通常の学級においても,発達障害を含む障害のある子どもが在籍している可能性があることを前提に,全ての教科等において,一人一人の教育的ニーズに応じたきめ細かな指導や支援ができるよう,障害種別の指導の工夫のみならず,各教科等の学びの過程において考えられる困難さに対する指導の工夫の意図,手立ての例を具体的に示していくことが必要である」と示されている。

これを踏まえて,小学校学習指導要領及び中学校学指導要領では,通常の学級においては,総則に加えて全ての教科等別に学びの過程で考えられる「困難さ」ごとに,「指導上の工夫の意図」と「手立て」の例が示されている。これまで,どうしても障害種別の記述にとどまりがちだった示し方ではなく,一歩踏み込んで,各教科の特性に応じて,一人一人の「困難さの状態」に焦点を当てている。この手立ては,特別支援学校学習指導要領等における自立活動の考え方を示しているとも考えることができ,特別支援教育の「学びの連続性」という観点からとらえることができるとともに,画期的なことと評価することができる15)

特別支援学級においては,これまでの学習指導要領では「解説」で示されていた教育課程の編成に係る事項が,本文で示された。それは,教科指導において,児童生徒の障害の状態等を踏まえ,対象児童生徒の目標及び内容を,当該学年のものでなく,下学年の目標や内容に替える「下学年適用」の教育課程の編成や,各教科を特別支援学校(知的障害)の各教科に替える「知的代替」の教育課程の編成,そして,特別支援学校小学部・中学部学指導要領の自立活動を加える「小学校各教科と自立活動」の教育課程の編成と,教育課程編成の具体的手続きが示されている。また,特別支援学級に在籍する児童生徒については,「個別の教育支援計画」と「個別の指導計画」を作成することだけでなく,それをさらに進めて活用することも義務づけられた。これまでは「作成」が努力義務として示されていただけだったが,効果的な「活用」まで踏み込んで示している。

さらに,通級による指導において「特別の教育課程」を編成する際の留意事項も,特別支援学校小学部・中学部特別支援学校の自立活動を参考にすることと学習指導要領本文に示された(表2)。

表2 「小学校学習指導要領(平成29年告示)」より抜粋
第1章 総則
第4 児童の発達の支援
2 特別な配慮を必要とする児童への指導
(1)障害のある児童などへの指導
ア 障害のある児童などについては,特別支援学校等の助言又は援助を活用しつつ,個々の児童の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を組織的かつ計画的に行うものとする。
イ 特別支援学級において実施する特別の教育課程については,次のとおり編成するものとする。
(ア)障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るため,特別支援学校小学部・中学部学習指導要領第7章に示す自立活動を取り入れること。
(イ)児童の障害の程度や学級の実態等を考慮の上,各教科の目標や内容を下学年の教科の目標や内容に替えたり,各教科を,知的障害者である児童に対する教育を行う特別支援学校の各教科に替えたりするなどして,実態に応じた教育課程を編成すること。
ウ 障害のある児童に対して,通級による指導を行い,特別の教育課程を編成する場合には,特別支援学校小学部・中学部学習指導要領第7章に示す自立活動の内容を参考とし,具体的な目標や内容を定め,指導を行うものとする。その際,効果的な指導が行われるよう,各教科等と通級による指導との関連を図るなど,教師間の連携に努めるものとする。
エ 障害のある児童などについては,家庭,地域及び医療や福祉,保健,労働等の業務を行う関係機関との連携を図り,長期的な視点で児童への教育的支援を行うために,個別の教育支援計画を作成し活用することに努めるとともに,各教科等の指導に当たって,個々の児童の実態を的確に把握し,個別の指導計画を作成し活用することに努めるものとする。
特に,特別支援学級に在籍する児童や通級による指導を受ける児童については,個々の児童の実態を的確に把握し,個別の教育支援計画や個別の指導計画を作成し,効果的に活用するものとする。

今次改訂において,交流及び共同学習については,小学校学指導要領及び中学校学習指導要領において大きな変更はなされていないが,小学校学習指導要領解説総則編及び中学校学習指導要領解説総則編においては「特別支援学級の児童との交流及び共同学習は,日常の様々な場面で活動を共にすることが可能であり,双方の児童の教育的ニーズを十分把握し,校内の協力体制を構築し,効果的な活動を設定することなどが大切である」と通常の学級と特別支援学級の交流及び共同学習の積極的推進が述べられている16)。これまでは特別支援学級が「特別の教育課程」を編成し,いくつかの教科で交流及び共同学習を恒常的に実施していた場合に,教科の枠組みが異なることためや児童生徒の障害の状態から,目標及び内容が連続した指導計画に基づいた実施に困難があった。ところが,今回の改訂により,「知的代替」の特別の教育課程おいては,各教科の目標及び内容が共通の枠組みで示されたことや,「個別の教育支援計画」及び「個別の指導計画」の作成及び活用が義務づけられたことにより,これらを活用することにより,「学びの連続性」を確保した指導計画の作成ができるようになったといえる。これについては,小学校及び中学校における「合理的配慮」の提供を含め,今後,「知的代替」の「特別の教育課程」が編成された特別支援学級設置校における実践研究による成果を期待したいところである。

また,これにより,小学校等においては,「特別支援学校等の助言又は援助を活用」,いわゆる「特別支援学校のセンター的機能」の重要性が一層高まると考えられる。

7. 全体のまとめ

本論文では,平成29年4月に改訂された特別支援学校学習指導要領等において示されている「学びの連続性」というキーワードに着目して,今次改訂で示された幼稚園教育要領,小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領やそれに係る「答申」を解題することによって,次のことを明らかにした。

〇 「学びの連続性」の背景にあるのは,「分科会報告」にある共生社会を目指したインクルーシブ教育システムの構築における「連続した多様な学びの場」という考え方であること。

〇 「学びの連続性」を確保するために,新しい特別支援学校学習指導要領等では,「特別支援学校(知的障害)における各教科の改善と充実」や「重複障害者等に関する教育課程の取扱いの充実」が図られていること。

〇 小学校等における特別支援教育においても「学びの連続性」の確保という基本的考え方による学習指導要領の改訂が行われており,そのためには障害のある児童生徒の「個別の教育支援計画」と「個別の指導計画」の作成と活用が求められていること。

なお,幼稚園教育要領については,稿を改めて「乳幼児教育における特別支援教育の推進」という観点から詳述しているので参考にされたい17)

平成19年の学校教育法の一部改正によりスタートした特別支援教育から10年が経過した。この10年間の課題を踏まえての今次学指導要領の改訂である。今次改訂において「学びの連続性」が重要なキーワードとなったということは,過去10年間の特別支援教育の推進において,それが大きな課題であったということを表している。今次改訂により学習指導要領レベルでは「学びの連続性」という課題解決へ向けて基本的考え方が示されたといえる。今後は各学校において,この基本的考え方による教育実践が展開されると考えられる。教育実践レベルでの成果と課題の検証を進めていく必要がある。

文献
  • 1)  中央教育審議会.幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申).2016.
  • 2)  文部科学省.幼稚園教育要領〈平成29年告示〉.東京:フレーベル館,2017.
  • 3)  文部科学省.小学校学習指導要領(平成29年告示).東京:東洋館出版社,2018.
  • 4)  文部科学省.中学校学習指導要領(平成29年告示).京都:東山書房,2018.
  • 5)  文部科学省.特別支援学校幼稚部教育要領(平成29年告示).文部科学省:特別支援学校教育要領・学習指導要領,東京:海文堂出版,2018, 1–28.
  • 6)  文部科学省.特別支援学校小学部・中学部学習指導要領(平成29年告示).文部科学省:特別支援学校教育要領・学習指導要領,東京:海文堂出版,2018, 29–201.
  • 7)  中央教育審議会初等中等教育分科会.共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告).2012.
  • 8)  文部科学省初等中等教育局.障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について(通知).2013.
  • 9)  文部科学省.文部科学白書(平成29年度).2018.
  • 10)  文部科学省初等中等教育局特別支援教育課.通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について.2012.
  • 11)  文部科学省.特別支援教育資料(平成28年度).2017.
  • 12)  文部科学省初等中等教育局.通級による指導の対象とすることが適当な自閉症者,情緒障害者,学習障害者又は注意欠陥多動性障害者に該当する児童生徒について(通知).2006.
  • 13)  文部科学省.学校教育法施行令の一部改正について(通知).2013.
  • 14)  井上昌士.教育内容等の主な改善.全日本特別支援教育連盟(編),平成29年版特別支援学校新学習指導要領ポイント整理特別支援教育.東京:東洋館出版社,2018, 31–35.
  • 15)  山中ともえ.通常の学級・特別支援学級・通級による指導.「特別支援教育の実践情報」編集部,横倉久(編),平成29年版学習指導要領改訂のポイント特別支援学校.東京:明治図書,2018, 54–55.
  • 16)  長江清和.特別支援学級における交流及び共同学習.全日本特別支援教育連盟(編),平成29年版特別支援学校新学習指導要領ポイント整理特別支援教育.東京:東洋館出版社,2018, 106–107.
  • 17)   阿部 敬信, 木舩 憲幸, 阪木 啓二, 沖本 悠生, 井上 佳奈.乳幼児教育における特別支援教育の推進―特別支援教育から,インクルーシブ教育システムの構築へ向けて―.人間科学 2019; 1: 38-48.
  • 18)  文部科学省.特別支援学校学習指導要領等の改訂のポイント.2017. http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/siryo/_icsFiles/afieldfile/2017/08/22/1393834_1.pdf.
 
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