本年度4月に開設した本校子ども教育学科では,同じく新設のKSU子育て支援室に来室する乳幼児の親子と地域の方々を対象として,日本の伝統行事である七夕の会の開催を企画した。この“夕涼み会・たなばたコンサート”は,乳幼児の親子・学生相互の育ち合いや世代間交流を目的とし,他者と共に喜びを共有できるような交流の場となることを描きながらプログラムを考案した。打合せ・準備・練習を積み上げていった1か月半の取り組みと開催当日・事後のふり返りの中で,学生がどのように学びを深めていったのか,学科教員や子育て支援室との連携の工夫と課題について報告し,今後の学生支援・子育て支援に繋いでいく。
子ども・子育て関連三法に基づく「子ども・子育て支援新制度」が2015年からスタートし,各自治体は「地域の子育て支援の充実」のための事業施策に取り組んでいる1)。大学・短期大学でも,子育て支援室を学内に併設したり,自治体や保育所,子育て支援関連施設と連携したりと,学生が行事や保育に関わっていく取り組みの報告がなされている。大学と自治体との連携による「子育てカフェ」の実践においては,自治体のサービスと家庭の接続や,学生の学びと地域での子育て支援の両立が課題としてあがり2),「子育て広場」事業への学生の参加では,学生の学びの継続と自主参加,教育効果の増加を課題としている3)。さらに,子育て支援事業に参加した学生の学びの成果とともに養成校教員の時間のなさが問題点の一つとして上がっている4)。
本学では,未就園児親子を対象とした「KSU子育て支援室」を人間科学部内に設置している。学生の学びや研究施設としての機能を併せ持つ施設だということを承諾した乳幼児とその保護者の登録・会員制で今春にスタートした。保育者養成カリキュラムの中で,免許資格取得必要要件の科目履修・単位修得・実習以外に,KSU子育て支援室に来室する就学前親子のかかわりの様子や子どもたちの遊びの様子を観察したり,行事に参加したり,短時間でも身近に継続してふれあうことにより,“子育て支援”とともに,子どもの心身の発達等についての理解や保護者の子育て支援についての学生の学びとなるよう計画を進めているところである。
本稿では,今春新設の本学子ども教育学科とKSU子育て支援室の連携により企画した,日本の伝統行事である七夕の会の開催という試みを通しての学生の学びの深まりの様子や,教科間連携の工夫と課題について報告する。
乳幼児の親子と共に,様々な環境・モノの面白さにふれたり,おはなしを聞いたり,音に触れたり,作る喜びを味わったり,五感を豊かに育んだり表現したりできるようなイベント企画にしたい,また,乳幼児の親子や会を担当する学生自身にとっても,日本の文化や伝統に親しむ機会5)にもしたいと願いつつ,“夕涼み会・たなばたコンサート”に取り組むこととなった。
保育について学ぶ新1年生のうちの16人が,コンサートチームとおはなしチームのどちらかを担当し,開催当日まで準備や練習を行った1か月半の取り組み・振り返りの記録について報告する。
「夕涼み会・たなばたコンサート」当日は,16時半に来校した親子が水ヨーヨー釣りや七夕飾りづくりを楽しみながら開会を待ち,会の前半は,七夕や星についての話の後,おはなしチームの学生による手遊びとブラックライトシアター「たなばた」の演示,後半は和太鼓や楽器による親子参加型のたなばたコンサート,帰りには,七夕笹飾りを持ち帰るという内容の約1時間半のプログラム構成である(図1参照)。対象は,子育て支援室登録の親子の中で参加希望の家族(幼稚園生や小学生のきょうだいや父親等の参加希望あり),交流を開始した地域公民館の方々,会当日のプチオープンキャンパス注1)参加の高校生とし,図2のような流れと役割分担により,会当日を迎えた。
夕涼み会・たなばたコンサートの配布しおり(学科助手作成)
夕涼み会・たなばたコンサートの打ち合わせ資料(筆者作成)
KSU子育て支援室入り口付近には,“夕涼み会・たなばたコンサート”開催当日の約10日前から,来室した親子が自由に飾りを作ったり短冊に願い事を書いたりできるように,七夕飾りづくりコーナーを設置した。会当日午前中の子育て講座「七夕飾りづくり」(学科教員担当)や午後の本会の開催を親子で楽しみに待てるようにと考えたものである。
“夕涼み会・たなばたコンサート”開催については,5月23日(水)に,新1年生の学生16人と教員3人とで集まり提案を行った。会の内容は,大きくは,七夕に関連したおはなしとコンサートの2本立てのため,学生の特技や興味・関心をもとに,コンサートチームとおはなしチームの二つに,学生の希望で分かれた。その後,リハーサルまでは,2チームに分かれての打合せ・準備・制作・練習を表1の通り進めていった。
本稿は,“夕涼み会・たなばたコンサート”の取り組みについて,2チームそれぞれの担当教員が活動の目的や実践内容の詳細について記述し,学生の事後に提出した振り返りシートから,学生の学びの内容について報告する。
月日 | おはなしチーム: 担当教員 森暢子 (3号館1階幼児保育演習室) |
コンサートチーム: 担当教員 植村和彦 (3号館2階大音楽室) |
学科内,学科外との連携 |
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5/23(水) | 夕涼み会の提案・・・参加対象,会の内容,目的(3号館5階教室にて) コンサートとおはなしの2チームに,学生の希望で分かれる |
※学内の女子学生の会に浴衣プロジェクトの依頼 ※大笹の搬入依頼(学科内教員と学内の学外連携課) ※水ヨーヨー準備(ヨーヨーやビニールプール等の購入) ※大学女子学生の会のくすぐるちゃんの参加依頼 ※地域公民館に浴衣着付けの依頼 ※KSU子育て支援室入り口に七夕飾りコーナー設置 ※七夕飾り作り(1年生の学生全員:飾り・持ち帰り用) ※KSU子育て支援室の参加申込親子と学生に延期の連絡(ホームページにもUP) ※延期実施内容の打ち合せ | |
5/28(月) | 七夕のお話作成に向けてのねらい,準備・製作の計画,役割分担(パネルシアター作成の工夫・手順についての資料配布) | 演奏発表に向けてのねらい,選曲とプログラム構成の検討会,準備・練習の計画,役割や演奏パートの分担 | |
6/4(月) | パネルシート製作 (役割・色分担,お話プリント配布) |
プログラム決定,楽譜解説,演奏練習(器楽合奏用および歌とミュージックベルによる演奏のための楽譜資料配布) | |
6/11(月) | パネルシート製作 | 演奏・歌唱練習(個人練習および合奏) | |
6/18(月) | パネルシート製作 演示練習・打ち合わせ |
演奏・歌唱練習(個人練習および合奏) 和太鼓を中心とするアンサンブルの検討(演奏曲,使用楽器,演奏時の演出) | |
6/25(月) リハーサル チーム練習 |
会場セッティング 演示方法の確認 会全体の役割分担の確認 |
ステージ進行を踏まえた試演(演奏者の移動,使用楽器の配置および撤収)(進行表および役割分担表の確認) | |
7/2(月) リハーサル |
夕涼み会・たなばたコンサートの全体の流れの確認 会場内・ステージ上の道具・機材等の確認,役割分担の再確認 |
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7/6(金) 開催予定日 |
夕涼み会・たなばたコンサート(大雨で延期決定) | ||
7/18(水) 延期開催日 |
夕涼み会・たなばたコンサート(延期して開会) 午前中10時半から開始,同様のプログラムで進行 |
学科内で,KSU子育て支援室の親子を対象とした夕涼み会の企画が挙がり,地域の方々やプチオープンキャンパスで来校している高校生にも参加を呼びかけることが決定した。企画規模が大きくなったことで,行事開催の対象が,KSU子育て支援室登録の乳幼児とその保護者,小学生(きょうだい児),高校生,高齢者と幅広くなり,人数も多いことから,児童文学が専門の教員とも相談し,素話や大型絵本の読み聞かせではなく,パネルシアターを活用することとした。
ブラックライトシアター「たなばた」
パネルシアターとは,白や黒の布を張った板の上で,絵を描き切り取ったPペーパーを動かしながらお話をしていく古宇田亮順により1973年に発表された教材である。「演者と子どもの一体感が高まるところに計り知れない楽しみがある」6)ものとして,保育教材としてだけではなく,小学校や地域活動の現場等にも普及してきている。既製品もあるが,学生と共に制作すること,また,七夕にちなんだ話もたくさん出版されているが,昔から伝わる七夕の物語にすることまでを教員側からの提案とした。
1) 目的おはなしチームとしての今回の活動の目的を,『子どもとその保護者とともに,我が国の伝統行事・お話に親しむ』『言語表現,造形表現などの「表現」に関する保育の知識・技能を習得する』『行事開催に向けて,他者とともに考え,工夫したり協力したりする』の3つとし,新1年生の前期での取り組みと会の開催であることを考慮しつつ,少しでも学生主体の行事への取り組みとなるよう意識しながら学生指導に当たった。
2) 取り組みの内容 a.七夕のお話の決定おはなしチームを選択した5名に,改めて,夕涼み会・たなばたコンサートの会の概要を説明し,制作・準備の日程を打ち合わせ,七夕の話を調べてくることを提案した。
次回に集まった際に,七夕の話には,織り姫に子どもが1人いたり2人いたりする,織り姫が自分から家に帰る話もあれば,泣く泣く別れさせられるものもあるなど,様々な展開があること,呼び名も「彦星,牛飼い,牽牛」等と種々あることを学生とともに確認した。今回の会の対象年齢が広いこと,特に小さな子どもたちにもわかるような話にしよう,パネルシアターを作成したことはないが挑戦してみたいという意欲的な言葉が学生の中から挙がった。話を簡略化するが伝統の話の展開をあまりくずしすぎないよう考慮して行うことを,教員が確認した。
b.制作の取り組みパネルシアター・ブラックパネルシアター・ブラックライトシアターのうち,夕方に開始すること,星の話であることから,より効果的であるものとして,ブラックライトシアターを制作することとした。また,当日の参加者も多いことが予想され,会場も広く,話の登場人物や話の展開(絵の移動)等を実際に考えていく中で,当初パネル1台の使用予定から,横にパネルを3台並べた大きな舞台として演示することにした。
シートの絵を描く際には,毎回,3台のブラックパネルを並べ,大きさを確認しながら下書きを行った上で,色塗りを開始した。蛍光塗料は6色で,混色すると光らないとの注意書きがあり,製作する絵の数・担当を決め,配色も重ならず,より効果的になるよう皆でよく話し合ってから,分担作業に入った。
シートの製作途中や,演示方を決めたり練習したりする過程では,互いに見合い,より効果的になるようコメントを出し合った。また,担当の5人以外の学生も時折参加して,製作を手伝ったり,絵や動きについて的確なコメントを出したりすることもあり,改善しながら制作を進めていった。
ナレーションは,アナウンス研究会に所属する学生の自薦・他薦で担当することが決まった。また,乳幼児の親子が着席するまでに手遊びをして待つのはどうかとの学生からの提案から,準備や演示の動きを考慮して,ナレーション役の学生が担当することになり,幅広い年齢層に合う手遊びの選択や練習を重ねていった。
c.学生のふり返り(開催後に振り返りシート提出)会開催後に,準備・練習,開催当日のことについての振り返りを行うとともに,ふり返りシートを学生各自が提出した。
学生の学びの内容は,「1.子どもたち対象者への配慮・意識等」と,「2.専門的知識・技能の向上」に関する内容が多く挙がっていた(表4)。専門的科目を履修・修得していない経験の無い1年生とはいえ,実際の親子を対象とした発表を目指すことにより,制作過程・当日の演示の両方において,意識が向上し効果も高まったものと考えられる。また,学科代表として演示する責任についての記述もあり,さらに,1年生前期の取り組みであったことから学生同士の深い関わりにも繋がっていることがわかる。他のコンサートチームの練習・発表を間近に観ることで,“おはなし”だけではなく,楽器演奏等についての技能修得にも意欲的記述があった。
3) 考察と今後の課題参加者人数や演示の場面の大きさ・絵の動きを考えて,パネルを3台並べて使用したことは大変効果的であったが,その分,演示前後のパネル配置・移動は難しくなったが,少人数でよく協力し合って動いていた。
ブラックライトシアター制作においては,蛍光塗料・蛍光紙の特色や6色という色の少なさを考慮しながら,配色を工夫・分担して決めていったが,この話し合いについては,学生もふり返りシートに記載している。“少色”故に試行錯誤せざるを得ず,結果,話し合いを重ね,それが学生同士の交流にもなっている。
担当学生全員が集合できる時間は十分ではなかったが,目に見える絵の製作という点では,常設しておいた3枚のパネルに貼ったシートを見て,お互いの進行状況等を把握するようにしていた。また,5人という少人数での演示であることから,絵の動かし方・出し方や分担・自分自身の移動の仕方などについて話し合いを重ね,リハーサルで撮影した映像を観ながらさらに検討を行った。特に,クライマックスで,織り姫と牛飼い牽牛が渡るカササギの橋の作成を担当した学生が,大きさや色の塗り方,シートの出し方に最後までこだわっていたことが,チームの他の4人の責任感や意欲の向上にも繋がっていたものと考えられる。
しかし,学生主体で取り組んだり,パネルシアターの仕掛けや両面の絵等のより効果的な方法について研究したりするには,もっと十分な時間が必要であった。今後,このような準備・練習を重ねての活動・行事を企画する際には,学生同士で意見交換を重ねられるような時間・場の確保がまず一番の課題である。学科で,卒業までの4年間を見通し,授業と課外活動とを合わせた学生の学びについて検討していくことが必要である。
(2) コンサートチームの取り組み:学生と教員による親子参加型の「たなばたコンサート」の開催 1) 目的取り組みに参加する学生全員が入学して間もない1年次生であり,「子ども教育学科での音楽関連科目の受講前であること」や,「入学前における音楽発表や楽器演奏の経験が少なく,楽譜の読譜に自信がない学生もいること」を踏まえ,KSU子育て支援室と連携して開催する交流行事の中で,集団で創る音楽表現発表を乳幼児の親子や地域の方々らと共有する体験を通して,まずは学生自身が達成感を得たり,今後の大学での学びに活かしたりすることが出来るようにとの思いから,本取り組みにおいて以下の3つの目的を設定した。
a.「学生主導による演奏発表を通して,子どもとその保護者との交流体験を得る」学生と教員が力を合わせて創るコンサートであるが,初期の企画段階から参加学生一人一人が想像力を発揮して,乳幼児の親子ら当日の参加者に楽しんで頂けるような内容や,各自が備える演奏技能や得意分野を活かしつつ,このメンバーでどのような形の表現発表が可能であるか思索して欲しいと考えた。さらにその発表を通じて子どもや保護者と積極的に交流を深め,親子の様子をよく観察することで,子育て支援の在り方の可能性について関心を持って考えていくように促したいと考えた。
b.「音楽表現などの“表現”に関する保育の知識・技能を習得する」保育者養成大学での学びのカリキュラムの初期段階(1年次前期)にて学習中の学生が,この時期に実際に乳幼児や保護者との関わりの中で表現することの楽しさを共有する体験を通して,保育や幼児教育の実践における表現活動の大切さや,そこで保育者に求められる様々な技能について各自が意識しつつ取り組んで欲しいと考えた。
c.「行事開催に向けて,他者とともに考え,工夫したり協力したりする」個人の特性を踏まえた役割分担のもとで各自がチームの一員として演奏発表に向けて取り組み,他者と意見交換をすることや,助け合いながらコンサートを創る体験を通して,保育や幼児教育の現場で職務にあたる上で欠かせないコミュニケーション力や協調性の重要性を実感して欲しいと考えた。
2) 取り組みの内容 a.「たなばたコンサート」への参加学生本取り組みに参加した学生は,人間科学部子ども教育学科1年生の11名(女子6名,男子5名)である。表2に示すように,事前の聞き取り調査においては,11名中4名が,入学前の音楽経験について「特になし」と回答している。
性別 | 入学前の音楽経験 | |
---|---|---|
学生A | 女 | ピアノを小学校1年次から6年次まで習っていた。中学校では3年間吹奏楽部に所属しクラリネットを担当。 |
学生B | 女 | 特になし |
学生C | 女 | ピアノを中学生の頃に2年間習っていた。箏の演奏経験がある。 |
学生D | 女 | ピアノを4歳頃から高等学校1年次まで習っていた。神楽において笛の演奏経験がある。 |
学生E | 女 | ピアノを中学校1年次から高等学校3年次まで習っていた。 |
学生F | 女 | 中学校では伝承芸能部に所属し笛を担当。 |
学生G | 男 | 特になし |
学生H | 男 | 小学生の頃から現在まで和太鼓の演奏に取り組んでいる。 |
学生I | 男 | 特になし |
学生J | 男 | ピアノを3歳頃から小学校4年次まで習っていた。高等学校では吹奏楽部に所属し打楽器を担当。 |
学生K | 男 | 特になし |
以前ピアノを習っていた学生や,吹奏楽部に所属して活動していた学生もいるが,中でも4名の学生が,日本で古来より使用されてきた箏,笛,和太鼓といった伝統的な和楽器の演奏経験を有している点は特徴的である。
b.構成上の留意点実際にたなばたコンサートの構成について検討を開始する上で,以下のような留意点について伝達した。
特に今回は未就園児と保護者を対象としつつ,地域の方々も参加する夕涼み会の中でのコンサートであるという位置付けを踏まえ,限られた時間の中で,自分たちの自己満足で終わることなく,子どもも親も楽しめるような内容にするためにはどうすれば良いか,という視点のもとで意見交換をした。「七夕にちなんで“星”に関係する曲を演奏する」,「日本らしい和楽器を使って演奏する」,「プログラムに皆で一緒に歌えるような曲を入れる」,「曲に合わせたダンスを取り入れる」といった案が出される一方,本番までの練習期間が短いことも考慮しつつ,プログラムを組み立てた。また,本取り組みにおいては,本学の「女子学生の会」の協力を得ることができ,当会のマスコットキャラクター“くすぐるちゃん”(着ぐるみ)のコンサートへの参加も実現したため,どの場面において共演が可能であるか,合わせて検討を行った。
c.プログラムb.の留意点や学生の意見を踏まえ,たなばたコンサートのプログラムを次のように決定した(表3)。以下,各曲における表現上の意図や,学生の学びという観点において期待した点について記述する。なお,コンサートにおいては,表中の②および③のピアノ演奏は教員が担当した。
演奏曲目 | 編成 | |
---|---|---|
① | 和太鼓独奏(即興演奏) | 和太鼓 |
② | 「七夕おどり」(作曲:遠藤実) | 和太鼓+鈴+ピアノ |
③ | 「『ああ、お母さん、あなたに申しましょう』の主題による12の変奏曲」 “きらきら星変奏曲”(抜粋演奏)(作曲:W.A.モーツァルト) |
ピアノ |
④ | 「たなばたさま」(作詞:権藤はなよ/作曲:下総皖一) 【体験】~くすぐるちゃんと一緒に親子でベルを鳴らしてみよう!~ |
うた+ミュージックベル+ピアノ “くすぐるちゃん”演奏参加 |
⑤ | 映画『となりのトトロ』より「さんぽ」(作曲:久石譲) | 器楽合奏+ピアノ |
①和太鼓独奏(即興演奏)〈約2分間〉
チームに,和太鼓の演奏を得意とし長年の演奏経験を有する男子学生がいたため,和太鼓独奏による即興演奏によってコンサートを開始した。和太鼓の演奏に関しては奏法による音色の変化や強弱など豊かな表現力に加え,素早い撥さばきなど全身を使った身体表現の要素も多く含まれ,参加者全員の聴覚・視覚に強い印象を残しつつ,日本の伝統音楽の雰囲気に導くことを目指した。間近で奏される力強く迫力のある和太鼓の音に子どもたちは圧倒されている様子であった。
②「七夕おどり」〈約3分間〉
「七夕おどり」(作曲:遠藤実)の旋律を用いて,和太鼓,鈴,ピアノによる3名でのアンサンブルを試みた。当初は旋律を横笛で演奏し,和楽器のみの編成によって参加者に日本の伝統的な祭りや踊りの景色を想起してもらうことを意図したが,諸事情により実現出来ずピアノでの演奏に変更した。日本的な雰囲気を生み出すヨナ抜きの短音階と踊りの軽快なリズムで表された旋律を,あえてグランドピアノで演奏することには新鮮さを覚えた。
③「『ああ,お母さん,あなたに申しましょう』の主題による12の変奏曲」〈約5分間〉
和太鼓を活かした①,②の演奏とは対照的に,モーツァルトが作曲した変奏曲を演奏した。なお,時間の都合上やむなく一部の変奏を割愛した。日本では「きらきら星変奏曲」の名で親しまれている通り,テーマで童謡「きらきらぼし」として有名な旋律が演奏された後,それが様々な形に変奏されていく形式である。親子はもちろんだが,現在ピアノ実技を学んでいる学生たちにも,楽器の広い音域や様々な演奏技法を活かして書かれたこの作品を通して,ピアノ演奏の楽しさや,モーツァルトのピアノ作品らしい軽快な音楽の魅力を感じ取って欲しいと考えた。
④「たなばたさま」(親子でミュージックベル体験)〈約10分間〉
上記③までは独奏および少人数での演奏であったが,この季節に相応しい文部省唱歌「たなばたさま」を全員で歌とミュージックベルによって演奏した。ここでは学生だけでなく,親子も参加して力を合わせて一つの演奏を創るというねらいのもと,ミュージックベルの演奏体験を組み込んだ。
音名ごとに色分けされたハンドタイプのベルを用いて(写真2),まず学生が模範演奏した後,一組の親子に対して一音ずつデスクタイプのベルを配布し,旋律の演奏に参加してもらった。未就園児にとってハンドタイプのベルを演奏することは難しく,また今回は親子で一緒に息を合わせてベルを鳴らして欲しいという意図から,デスクタイプのベルを保護者に渡し,子どもの手を取りながら一緒にベルを鳴らす形で実践した。
体験時には,それぞれの親子のもとに,同色(同音)のベルを持った学生が付き添い,歌詞カード(図3)を示しながら正しいタイミングで鳴らすことができるように導いた。カードには予め歌詞に対応して鳴らすべルの色を記し,親子が手元のベルをいつ鳴らせば良いか視覚的に確認し易いように工夫した。まずはピアノ伴奏7)に合わせて,遅いテンポで親子とともにベル演奏の練習を行い,次に全員で歌詞を歌いながら同時にベルで旋律を繋いで演奏体験を行った。
「たなばたさま」色分け歌詞カード
使用ベル(ハンドタイプ・デスクタイプ)
一組の親子が担当する音はそれぞれ一音だけだが,他の参加者や学生が鳴らす音に耳を傾けながら,自ら担当するベルをタイミング良く鳴らしていくことで,一つの旋律が繋がっていく喜びを体感し,参加者全員でそれを共有することが出来ればと考えた。また,親子に付き添った学生らには,親子が楽しく演奏に参加出来るような配慮や正しいリズムで旋律の構成音を鳴らせるような的確な助言をすることが求められ,有意義な体験となったと思われる。
また,この親子での演奏体験時において,前述の「女子学生の会」のマスコットキャラクターである“くすぐるちゃん”を特別ゲストとしてステージに呼び込んだ。鈴を手に参加者と一緒に「たなばたさま」の演奏に参加してもらったが,子どもたちはその身体の大きさに驚きながらも笑顔を見せていた。
⑤映画『となりのトトロ』より「さんぽ」〈約4分間〉
コンサートの結びとして,保育所や幼稚園でも使用される機会の多い曲「さんぽ」を,参加学生全員で以下の楽器編成にて合奏した。予め楽譜資料8)をもとに学生間で話し合い,表2で示した入学前の音楽経験や個人の読譜に対する負担感を考慮して,各自の担当楽器を以下のように決定した。
・鍵盤ハーモニカ 3名(学生B,F,K)
・横笛 1名(学生D)
・シロフォン 1名(学生C)
・ヴィブラフォン 1名(学生A)
・スネアドラム 1名(学生H)
・バスドラム 1名(学生I)
・タンバリン 1名(学生J)
・シンバル 1名(学生G)
・ピアノ 1名(学生E)
これまでなかなか合奏用楽譜(スコア)を目にすることがなかった学生にとって,楽譜に書かれている音高やリズムなどを理解することから始める必要もあったが,学生同士で助言し合いながら練習を積み重ねた。全員にとって聴き馴染みのある作品でもあり,限られた練習時間の中において次第に良いアンサンブルになっていった。楽器を演奏する学生たち自身が同時に歌唱することは難しく,合奏を聴いてもらう形となったが,保護者が子どもと一緒に身体を揺らしながら,そして時折歌詞を口ずさみながら楽しんでいたのが印象的であった。参加してくれた未就園児に対して,このようなアンサンブル(合奏)を通して大小様々な鍵盤楽器や打楽器の音に触れる機会を設定出来たことは大きな成果であると考える。
d.学生のふり返り取り組みの実施後に各自が活動のふり返りを行った。前述のおはなしチーム同様,学生の学びの内容を表4に記す。
“夕涼み会・たなばたコンサート”実施後の学生のふり返りシートより(抜粋) | |
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1.子どもたち対象者への配慮・意識等 | 子どもたちが視覚的に変化を楽しめるものにしようと考えながら決めた。小さい子どもも大人も楽しめるよう意識しながら演じた。子どもたちが楽しめるように力や速さの加減を考えて演奏した。子どもの視線に合わせて声をかけ安心感を与えるよう努めた。子どもに分かりやすく言葉を選ぶなど「子どもが中心」という心構えで取り組んだ。泣く子もいれば興味を持つ子もいて子どもの様々な反応が見られた。「一緒にベル押してね」「すごいね」「出来たね」と笑いかけると子どももニコニコ笑っていた。親子や周りの方々が楽しそうにしていたので緊張もとけて安心した。当日,親が子どもにきれいだねと話しかけていたりするのを見てやりがいを感じた。子どもへの声かけの大切さや子どもの可愛らしさを改めて感じることができた。親子の様子を見て自分もとても楽しかったし,勉強になった。礼儀や仕草に気をつけ常に見られているからきちんとしようと心がけた。 |
2.専門的知識・技能の向上 | 効果的な色遣いを考え分担した。織姫の首が動くように工夫したり,絵を出したり外したりするタイミングを考えた。もう少し間を空けるともっと良くなると思う。何度も読み台本に区切りを付けゆっくりはっきり読むようにした。キレイな音を出そうという気持ちはもちろん表情にも気をつけて臨んだ。どのようにベルを教えるか考えた。個人練習を毎日行うことはもちろん空き時間を活用して音合わせを何度も行った。緊張しすぎないよう落ち着いて弾いた。 |
3.意欲,今後に向けての課題 | 子どもたちのことを考えるとわくわくしながら制作した。おはなしとコンサート以外にももっと様々なことにチャレンジしたい。ピアノがもっと上手くなれるよう練習したい。これからも少しずつ楽器を練習し生かせる特技の一つとなるよう様々な曲に挑戦してみたい。リハーサル以外にも自主練習をした。今回とは違う楽器もやってみたい。次回ある時は今回以上に頑張りたい。もう少し音量を下げパフォーマンスを重視していきたい。子どもを楽しませる為にみんなで意見を出し合い,それをしっかりと反映させていきたい。 |
4.責任感 | 授業の合間を縫っての準備で,初めは忙しく大変と思ったが子どもの姿を考えながら制作に当たった。準備やリハーサルなど時間に間に合うように心がけ行動した。やるべきことは最後までやりとげたいので最初から最後まで頑張った。自分のパートが足を引っ張らないように練習をした。集団での活動をする上では常に連帯責任であることを忘れずにしたい。誰か一人が休んだり遅れたりすることで周りに迷惑をかけてしまうことを肝に銘じたい。 |
5.見通しを持った行動の大切さ | 自分が今何をして次に何をするのかを冷静に考えながら行った。次の動きを考えながら舞台裏を早めに移動した。リハーサルではスムーズに進むように自分の役割を把握しているか確認して行った。少しみんなの取りかかりが遅かった。練習への参加状況が良くなかった。 |
6.友だちとの関わり・協働 | 裏方でしっかりコミュニケーションを取った。この活動の中で友だちと仲良くなれた。友だちとどの色を使うと効果的かなど話し合いながら決めた。楽譜が読めない人もいた中でだんだん音が合うようになってきた時は物凄く達成感を感じた。皆で力を合わせたり継続したりすることの大切さを改めて感じた。みんなで何かに向けて一緒に準備したり練習したりすることは良いことだと改めて実感した。自分だけがやる気になって練習しても意味がない。一人ひとりが協力することで団結することの大切さも学んだ。 |
コンサートチームの参加学生においては,特に「1.子どもたち対象者への配慮・意識等」,「3.意欲,今後に向けての課題」,「6.友だちとの関わり・協働」に関連する記述が多く見られた。
プログラムに参加者の演奏体験を組み込んだことで自ずと親子との交流の機会が生まれ,乳幼児との関わり方や求められる配慮について体験的に考える機会となっていたことが窺える。また自己の演奏技能を向上させることや様々な楽器の演奏を体験することに関して,今後を見据えた意欲的な記述も見られた。さらには今回のような集団での活動において各自に求められる責任感や,友人と協力・団結して取り組む意識や姿勢の重要性については多くの学生が言及していた。
一方では「5.見通しを持った行動の大切さ」に関連して,チームとしての準備や活動への取りかかりの遅さを指摘する記述や,授業の空き時間に設定した毎回の練習への参加状況が悪かったことへの反省も見られた。
3) 考察と今後の課題1)でも述べたように音楽関連科目を未受講の1年生による取り組みであることから,参加学生一人一人の音楽経験や読譜力に配慮しつつ,担当教員として使用楽譜の検討や構成に関する助言を行ったが,演奏実技に関しては限られた準備期間の中で各自がよく努力していた。
個人が楽器演奏や歌唱等の技能を向上させるべく継続的に努力することは当然重要であるが,さらには,具体的な構成や選曲,演奏上の工夫等についても学生間で活発な議論が展開出来るように学びと経験を深めていくことが求められよう。この点に関しては,多くの学生がふり返りの中で述べているように,集団で制作し実践する今回のような取り組みにおいて各自が担った役割を,責任を持って果たそうとする姿勢や,他者との協調性,準備過程で欠かせないコミュニケーション能力等を身につけていく必要があることは明白である。目的として挙げた「学生主導による」演奏発表の取り組みの実現は十分ではなかったと言わざるを得ない。
ただし,一つの要因として,今回の取り組みでは,担当学生全員が集合できる空き時間の確保が難しく,学生同士の意見交換や練習,情報伝達が十分に行えなかった。このことは,おはなしチームと同様,大きな課題と言える。
また,内容についての検討段階では,市販の音源(ポップス作品)を活用した身体表現(ダンス)をプログラムに取り入れる意見も出されたが,対象となる参加者(聴き手)が未就園の乳幼児の親子であることや,伝統行事である七夕に関連したおはなしチームの発表内容やその季節感から大きく逸脱することを避けるため見送ることとした。このように表現発表を行う「対象者が誰であるのか」を意識しつつ,取り組み全体を通しての目的やテーマをよく踏まえた上で内容について検討する過程は,今後様々な場面で重要となることが考えられる。
乳幼児の親子や地域の方,高校生の参加による “夕涼み会・たなばたコンサート”開催予定日は,各地での記録的な大雨の日に当たり,正午前後にはその日の開催は見合わせることを学校が決定し,参加予定者への連絡を行った。本学科では,“夕涼み会・たなばたコンサート”の準備・練習を積み重ねてきたことから,七夕の時期からは外れはするが,約2週間後の午前中に延期することとなり,新たに子育て支援室利用の親子や担当チーム以外の1年生にも参加を呼びかけ,大勢の観客の前で“夕涼み会・たなばたコンサート”を開催することができた。
今日では,0歳児から参加・鑑賞できるコンサートやオペラ,劇なども様々な規模や形式で上演されているが,普段の生活の中で音楽の生演奏に触れる機会の少ない乳幼児とその保護者が,今回のようなおはなしやコンサートを鑑賞し,時には演奏に参加して楽しい時間を過ごすことは,今後さらに親子で様々な実体験を共有していくことにも繋がると考えられる。志村(1996)は「子どもが膝の上にのって勝手な音をたたいても楽しくいっしょに弾いた経験は子どもの心に強く残ることでしょう。身近な人の音楽とのかかわりの姿が,その後の子どもの音楽生活の基盤となります。子どもが小さければ小さいほど楽しい雰囲気の中で身近な人と肌を触れ合いながら歌ったり,楽器で遊んだり,音楽を楽しむことが望まれます」9)と述べている。ここで言われる身近な人とは親であるが,実際に今回参加した保護者の感想には,
といった記述が見られ,今回の音楽鑑賞や演奏体験の喜びを親子で共有していることが窺える。
また,両チームに共通して多くの学生が前述のふり返りの中で記述していた「子どもたち対象者への配慮・意識等」が,保護者にもよく伝わっていたことは以下の感想からも明らかである(写真3)。
このように,親子とお話や音楽を通して交流する準備を重ねた上で有意義な時間を共有出来たことや,学生なりの子どもたちへの配慮がしっかりと参加者に伝わったことは,今後の学生各自の学びの過程において大きな糧となるだろう。
保育者もまた子どもたちの身近にあり,お話や音楽と関わることになる存在である。保育者を志す学生にとって,また保育者を養成する教育者にとって,優れた表現や演奏の技能の習得・育成を目指すこと以上に,乳幼児とどのように関わり,どのような実体験を共有出来るかということを継続的に追求していくことが重要な課題であると考える。
また,チームとしてのお話やコンサートに加えて,ヨーヨー釣りや七夕飾り作りなどを,学生と学科教員全員で担当したことにより,表4の学生のふり返りシートを見ても,多くの学びに繋がっていることがわかる。図4の通り,チーム担当の2人の教科間連携が中心となった取り組みであることは間違いないが,企画から準備・練習・開催まで,他教員のアドバイスや役割担当の力添えがあってこそ,盛会・学生の学びに結びついたと考えられる。新設学科だからこそ,教員間の意思疎通を図ろうとする思惑が全教員にはたらき,結果,教科間の連携が充実し,学生の学びの深化へも繋がったといっても過言ではないだろう。
入学したての1年生,それも第1期生のため,先輩からの伝達事項等もない中での大規模な企画であったにも拘わらず,思うように準備や打ち合わせに時間が取れなかった。その限られた時間内でのリハーサルではあったが,より効果的な順番や方法等を直前まで出し合えたことが,参加者の喜びや次回への期待へ,そして学生の次に向かう意欲へと繋がったことが,会開催の一番の収穫である。次年度以降に向けて,より一層,全教員で検討を重ね,地域団体との交流や連携も図りながら,乳幼児の親子への子育ち・子育て支援,学生の学びへと確実に丁寧につないでいきたい。
学生の横断的学びの相関図(学科教員:冨永剛 作成)
閉会後に,七夕笹飾りを持ち帰る親子