人間科学
Online ISSN : 2434-4753
研究論文
地域の素材を活用した造形遊びの教材開発と指導法~「あかま造形教室の森Vol. 2」でのワークショップを通して~
冨永 剛古賀 和博平 寛
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2021 年 3 巻 p. 12-23

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抄録

教材開発とその指導法研究の一環として,2018年度に子どもを対象としたアートプロジェクト「あかま造形教室の森」注1)を「LIFESTYLES展実行委員会」の主催で開催した。本研究では,「あかま造形教室の森Vol. 2」でのワークショップの活動を初等教育「図画工作科」における「造形遊び」の教材として位置付けることを目的とし,ワークショップの実践内容及び参加者を対象に実施したアンケート調査からの成果と課題を考察した。アンケート結果からの成果により,「ヒミツ基地,作ろうぜ!」「森の不思議な生き物をつくろう!」の活動を「造形遊び」の教材として位置付けることができた。しかし,「森のソーシャラート・クエスト」の活動を「造形遊び」の教材として位置付けることは難しかった。課題として,森の中での活動にあたって,子ども達への危険の周知や用具の使い方の指導を徹底し,悪天候の際の対応を考慮する必要があった。

Abstract

As a part of teaching material development and research of its teaching method, in fiscal year 2018, an art project for children, “THE ART CLASS IN THE FOREST—AKAMA”*1 was held by the organizing of “LIFESTYLES exhibition executive committee”. In this study, I aimed to position the activity of the workshop in “THE ART CLASS IN THE FOREST—AKAMA Vol. 2” as teaching materials of “freestyle arts and crafts” in elementary education “Drawing and Crafts”, I considered the practice contents of the workshop, and the achievement and problems from the questionnaire survey conducted for the participant of the workshop. By the achievement from the questionnaire result, I was able to position the activities of the “Let’s make a secret base!” and “Let’s create a mysterious creature in the forest!” as teaching materials of “freestyle arts and crafts”. However, it was difficult for me to position the activity of the “Socialite Quest in the forest” as teaching materials of “freestyle arts and crafts modeling”. As an issue, in the forest activities, the leaders needed to make sure that children were aware of the dangers and understand how to use tools, and consider what to do in bad weather.

1. はじめに

幼児教育において,「遊び」はとても大切な活動であると認識されている。幼稚園教育要領1)の領域「表現」には,「(5)いろいろな素材に親しみ,工夫して遊ぶ。」,「(7)かいたり,つくったりすることを楽しみ,遊びにつかったり,飾ったりなどする。」,「(8)自分のイメージを動きや言葉などで表現したり,演じて遊んだりするなどの楽しみを味わう。」といった「遊び」を含む内容が記述されている。その「遊び」の本質である主体性や発展性を取り入れたものが「造形遊び」となるだろう。倉原(2015年)は,「造形遊び」の歴史的変換について触れ,1997年に初めて「造形的な遊び」として小学校学習指導要領の低学年の表現領域に記載されたとしている2)。それから23年が経とうとしている現在(2020年),下学年だけではなく,上学年においても「場所や空間などの特徴を基にした造形的な活動」として「造形遊び」のことが記されている3)。上学年に加えられた「場所や空間などの特徴を基にした造形的な活動」は,指導者が「造形遊び」をどのような場所(空間)で行うのかで,その活動の広がり,活動での子どもの感じ方も大きく変わってくると思われる。つまりは,活動を行う場所(空間)は「造形遊び」にとって大きな要素だと言えるだろう。

そこで,「造形遊び」を行う場所(空間)として,福岡県宗像市の城山の麓に位置する福岡教育大学の豊かな自然環境を活用することにし,2018年度に子どもを対象としたアートプロジェクト「あかま造形教室の森」注1)を「LIFESTYLES展実行委員会」の主催で開催した。本プロジェクトにおいて実施したワークショップの活動を初等教育「図画工作科」における「造形遊び」の教材として位置付けることが研究の目的である。前回の研究4)では,「あかま造形教室の森Vol. 1」について調査・分析・考察し,そこでのワークショップの活動を「造形遊び」の教材として位置付けることができた。引き続き,本稿では「あかま造形教室の森Vol. 2」でのワークショップの活動を通して,「造形遊び」における実践的な教材開発とその指導法について研究する。研究方法としては,(1)「あかま造形教室の森Vol. 2」の実践内容,(2)「あかま造形教室の森Vol. 2」でのワークショップに参加した子どもと保護者を対象に実施したアンケート調査からの成果と課題,これらを考察し,今後の「造形遊び」のあり方,本取り組みの有効性を明らかにし,教育現場で地域の素材を活用する際の指針を示したい。

2. 「あかま造形教室の森Vol. 2」の実践内容

(1) 概要

「あかま造形教室の森」は,造形教育の基礎分野における指導法研究の一環として,2018年度に福岡県宗像市で子どもを対象として開催されたアートプロジェクトである。作家活動を展開する福岡教育大学美術科出身のアーティストを中心としたメンバーから構成されたグループ「LIFESTYLES 展実行委員会」が主体となった。筆者(冨永,古賀,平)もメンバーの一員である。

本事業の目的は,自然を素材とした造形表現の可能性を子ども達に伝えることであり,地域・大学・美術作家の連携を目指すものであった。「あかま造形教室の森Vol. 2」では,城山の麓に広がる福岡教育大学の敷地内にある森を舞台に,「あかま造形教室の森 美術展」における作品展示,オープニングイベント「みんなでランチ」,美術作家によるワークショップを実施した。なお,参加者はワークショップごとに募集し,各ワークショップで基本的には顔ぶれが違っていたが,複数のワークショップに参加した子どもが数名いた。

(2) 日時

・2019年3月2日(土)~3月10日(日)10時~14時

作品展示「あかま造形教室の森 美術展」

・2019年3月2日(土)10時~12時

ワークショップ「ヒミツ基地,作ろうぜ!」

・2019年3月2日(土)12時~13時

オープニングイベント「みんなでランチ」

・2019年3月3日(日)

①10時半~11時50分 ②13時~14時20分

ワークショップ「森の不思議な生き物をつくろう!」

・2019年3月10日(日)10時半~14時

ワークショップ「森のソーシャラート・クエスト」

(3) 会場

福岡教育大学 敷地内の森及び美術教棟

(4) 参加者

参加者:宗像市および周辺の小学生と保護者

実行委員会メンバー:阿部 守,古賀和博,冨永 剛,塩井一孝,平 寛,蒲池昌江,三重野睦美,渡邉有美,野見山美咲

ワークショップ招聘美術作家:吉本朋彦

スタッフ:福岡教育大学在学生及び卒業生

(5) 内容

1) 作品展示「あかま造形教室の森 美術展」

日時:2019年3月2日(土)~3月10日(日)

  10時~14時

場所:福岡教育大学美術・書道教棟側の森

出品美術作家「作品タイトル」:

阿部 守「森の中へ」,平 寛「残像」,渡邉有美「共棲」,冨永 剛「Summer Trip 2019」,野見山美咲「Continuation」

概要

2018年8月~10月に制作・設置した「アートキャビン」の周辺に,5人のアーティストが作品の展示を行った。

2) オープニングイベント「みんなでランチ」

日時:2019年3月2日(土)12時~13時

場所:福岡教育大学美術・書道教棟 図工演習室

参加者:子どもと保護者計27名

概要

Vol. 2初日のワークショップ終了後,実行委員会メンバー,スタッフ,参加した子ども達,保護者が一緒に昼食を取りながらプロジェクトについての話やお菓子のつかみ取り大会などのイベントを行った。

3) ワークショップの実施

a.「ヒミツ基地,作ろうぜ!」

日時:2019年3月2日(土)10時~12時

場所:福岡教育大学美術・書道教棟側の森,図工演習室

講師:古賀和博

参加者:子どもと保護者計51名

概要

予めヒミツ基地の骨組みだけ設置されたところに,森で見つけた木の枝や葉のほか,板や布・紐・針金などの様々な素材を加えて覆っていき,ヒミツ基地を完成させた。子どもたちは低・中・高学年で3つのグループに分かれ,協力しながら個性豊かな基地を創作した(図1注2)

図1 「ヒミツ基地,作ろうぜ!」活動の経過(写真)
1.1,2年生の低学年,3,4年生の中学年,5,6年生の高学年と3つのグループで,三箇所に分かれる
2.森にある自然素材を拾い集めたり,あらかじめ用意された板や布などを使って立方体の枠をカモフラージュしていく
 〈使用した素材〉
  木の枝,葉,板,布,プラスチック板,ダンボール,ネット等
 ★指導者は極力手を出さずに子どもの主体性を尊重する
3.素材は紐や針金を使って固定する
4.
☆低学年グループの様子
・子ども同士より親子で活動する姿が多く見られる
・葉や枝を中心にカモフラージュしている
〈低学年グループ〉
☆中学年グループの様子
・入口を竹や布を用いて飾りつけたり,板を敷き床に座れるように板を敷くなどの工夫が見られる
〈中学年グループ〉
☆高学年グループの様子
・やや難易度の高い丘陵地で活動,制作する
・仲間同士で活動する様子が見られる
・必要に応じてノコギリ,ペンチなどの工具を使っている
・木の枝を屋根も含め全面に使い,造形的な美しさへの意識が見られる
〈高学年グループ〉
5.完成したヒミツ基地
〈低学年グループ〉
〈中学年グループ〉
〈高学年グループ〉

b.「森の不思議な生き物をつくろう!」

日時:2019年3月3日(日)

  ①10時半~11時50分 ②13時~14時20分

場所:福岡教育大学美術・書道教棟側の森,図工演習室

講師:①蒲池昌江 ②三重野睦美

参加者:子どもと保護者計42名

概要

毛糸やプラスチックカップ,たわし,ボールなど様々な触感の素材が入った3つの箱から,それぞれひとつずつ中身を見ないで材料を引き出し,出てきた素材を組み合わせて森に住む不思議な生きものを作った。作品は二体制作し,ひとつは持ち帰ってもうひとつはアートキャビン(Vol. 1で森の中に制作した小屋)周辺の森の中に「住まわせ」(展示し)た(図2注3)

図2 「森の不思議な生き物をつくろう!」活動の経過(写真)
【①午前の部】
1.3つの箱の中から材料を取り出す
2.材料から作りたいものを想像する
 ★指導者は極力手を出さずに子どもの主体性を尊重する
3.想像した形になるように,グルーガンや木工用ボンドを使って材料を接着する
 ★道具を初めて使う子どもには丁寧に使い方を説明し,思い通りの形になるように支援する
4.完成した「不思議な生きもの」
5.完成した「不思議な生きもの」のキャラクターを考える
6.「不思議な生きもの」を森に持って行き,自分の好きな場所に「住まわせ」(展示)する
7.森の中の「不思議な生きもの」①
【②午後の部】
8.活動の進行は午前の部と同様
9.森の中の「不思議な生きもの」②

c.「森のソーシャラート・クエスト」

日時:2019年3月10日(日)10時半~14時

場所:福岡教育大学美術・書道教棟側の森,図工演習室

講師:吉本明彦

参加者:子どもと保護者計65名

概要

当初の計画では,森で材料を集めて弓や魔法の杖などの武器を制作した後で,ゲームのためのカードを制作し,それらを使ってスタッフが扮した4人の魔王に戦いを挑んでカードを集めるゲーム「森のソーシャラート・クエスト」を森と大学キャンパスで行う予定であった。しかしながら,当日は悪天候であったため,森で材料を集める代わりに木材の端材を準備し,ゲームも森には入らず大学キャンパスのみで行った(図3注4)

図3 「森のソーシャラート・クエスト」活動の経過(写真)
1.武器を作るために様々な形の木材の端材から幾つかを選ぶ(足りなかったら途中で追加してもよい)
2.木材の端材を組み合わせて武器の形にしていく
3.クールガンで木材の端材を接着する
 ★道具を初めて使う子どもには丁寧に使い方を説明し,思い通りの形になるように支援する
4.ポスカペンで着彩する
5.形によって,木材の端材だけではなく毛糸や紐も組み合わせる
 ★素材の特徴を生かすように促す
6.完成した武器
7.色画用紙を使って好きな模様のアタックカードを作る
8.アタックカードをラミネートする
9.カードと武器を持ってゲームを楽しむ
〈ゲームの主なルール〉
「クエスト(冒険)に行こう」をテーマに,3人チームを作り,四天王と大魔王を倒すゲーム。アタックカードは火(赤)・水(青)・雷(黄)の3属性に分かれている。各自で3属性のうち異なる2属性のカードをつくる。1人2枚しかカードを持っていないので,必ず3人でチームになる。偶然出会った3人で,制作した武器とアタックカードを手に持ち四天王へ挑む。6枚のカードを使って勝負をする。ジャンケンのルールと同様に三すくみを構成し,勝敗を決める。四天王4人全て倒したら大魔王の居場所を教わる。最後に大魔王と勝負して勝ったら終わり。

3. 参加した子どもと保護者を対象に実施したアンケート調査

本研究では,「あかま造形教室の森Vol. 2」での3つのワークショップについて,参加した子どもと保護者を対象に無記名式のアンケート調査を実施して,率直な意見を聴取した。

(1) アンケート調査方法

・実施期間:2019年3月2日(土),3月3日(日),3月10日(日)

・調査対象:「ヒミツ基地,作ろうぜ!」,「森の不思議な生き物をつくろう!」,「森のソーシャラート・クエスト」に参加した158名(有効回答 子ども52 保護者45 回収率61.4%)

(2) アンケート調査内容

ワークショップに参加した感想について,その内容を全て自由記述とした。

(3) 分析の手法

・質的分析の手法(例えば,グラウンデッドセオリー)を参考として,ワークショップごとに子どもの自由記述の内容から特徴の抽出・分類・概念化を試みた。①素材(森)について,②用具・技法について,③創意・工夫について,④達成感・意欲について,⑤周囲との関わりの5項目それぞれに関連が深いと思われる内容を抽出した(表1,表3,表5)。

・ワークショップごとに保護者の自由記述を抜粋した(表2,表4,表6)。

(4) アンケート結果

 

表1 「ヒミツ基地,作ろうぜ!」アンケート結果【子ども(24名)】
素材(森)
について
【子ども1A】自然な物をたくさん使ってやる事が出来たので良かったです。【子ども1D】ざいりょうがいろいろあってほんとうのひみつきちみたいにつくれてよかったです。【子ども1F】木の板や,草,ぬの,まるた,糸などのやつを,つくれてよかった。なんでもやったし,かえりは やすでのは を,もってかえったからよかった。【子ども1G】森の楽しさを知れて,もっと森に行ったりしたいです。
用具・技法
について
【子ども1E】ざいりょうを集めて,ひもでむすんでいって,どんどんできていくところが楽しかった。【子ども1G】今日,ひみつきちを作って,あまりしないことをできたので,うれしかったです。【子ども1X】ちょっとけがした。
創意・工夫
について
【子ども1C】私は,いろいろな工夫ができたことがよかったです。また,木を針金などで,くくりつけたりして,ひっかけたりすることもとても工夫できたし,楽しかったです。【子ども1D】自分たちで,森のものを自由に使っていろいろなくふうをしてひみつきちをつくれてよかった。【子ども1I】ヒミツきちで,いろいろなかざりをつけたり,ものをおいて,ヒミツきちをくふうしたりして,たのしかったです。【子ども1N】どうすればうまくいくか,かんがえるところがおもしろかった。
達成感・意欲
について
【子ども1A】私は,最初むずかしそうだなと思っていました。でも,やってみるとかんたんでした。だから,自分一人のひみつ基地を作ってみたいです。【子ども1B】またこのようなきかいがあれば,ぜひ参加したいと思います。【子ども1E】また参加してみたいです。【子ども1F】たのしかった。【子ども1H】自分たちで本格的な秘密きちを造ることができて楽しかった。【子ども1I】家の森でもいっぱいつくりたいです。もっと作りたかったです。【子ども1L】さいしょは,むずかしいとおもったけどとちゅうでたのしくなった。またつくりたい。【子ども1N】たのしかったです。【子ども1O】自分たちのきちを作れて楽しかった。【子ども1P】ヒミツきちづくりはたのしかったです。またしたいです。♡【子ども1Q】ヒミツきちをつくってたのしかったです。【子ども1R】楽しかった。←(きち)もっと作りたかった。←(きち)【子ども1S】ヒミツキチヲツクレテヨカッタデス。【子ども1T】楽しかったです。【子ども1U】たのしかったよ【子ども1V】たのしかった。【子ども1W】もっと時間を長くしてほしいです。
周囲との関わり
について
【子ども1B】この「あかま造形教室の森」で仲間と協力するということを学びました。一人では,あんなに立派な秘密きちはできなかったです。一人一人がゆずり合い,助け合うことであんな作品ができたと思います。このことを学校などのいろいろな場面で生かしていきたいと思います。【子ども1K】みんなでなかよくきょうりょくしていっしょうけんめいひみつきちをつくれたのでまた,つくりたいなと思いました。★【子ども1M】たのしかったしともだちといっしょにつくってみたいなとおもいました。
表2 「ヒミツ基地,作ろうぜ!」アンケート結果【保護者(3名を抜粋)】
【保護者1a】 私は保育園で働いています。自園でアート活動を行っているので,何かの参考になればと見学させていただきました。私も小さい頃基地作りなどしていましたので,見ているだけでワクワクする活動でした。子どもたちも,自由な発想で次々と基地を作り上げていく様子があり,見ていてとても面白い。大きな木を持ってくる子。小さい葉っぱでかざりつけをする子。次は知り合いの小学生を連れてきたいです。自園にも森があるので,こんなワークショップができたらいいなぁ。とてもいい参考になりました。ありがとうございました。
【保護者1b】 日頃この森のような自然環境の中で遊ぶ経験がないので,とても良かったです。既成のおもちゃでは育みにくい好奇心や探究心のようなものが育つのではないかと思います。とても良い経験になりました。
【保護者1c】 こういう機会がないので“(ヒミツ基地を作る)森で木をひろって葉をちぎってひもで結んだりすること”,とても良い経験だと思います。森で遊んだり過ごすのってとてもいいですね。外で絵を思いっきり描いたり,何か土で作ったりする経験を味わわせてあげたいです。
表3 「森の不思議な生き物をつくろう!」アンケート結果【子ども(15名)】
素材(森)
について
【子ども2A】いろんなざいりょうをつかって,2つのさくひんをつくって,楽しかったです。【子ども2C】3つのはこから1つずつとって,そのざいりょうをとってそのざいりょうと,テープやはさみをつかって考えるとこがよかったです。わたしが1ばんたのしかったのは,ざいりょうでつくるところです。どうしてかというと,自分で考えるのが楽しかったからです。【子ども2F】ボックスからとるとき,ドキドキしました。【子ども2H】ざいりょうがなにになるのかどきどきしました。【子ども2I】森に飾るのも面白かったです。
用具・技法
について
【子ども2C】森にものをおくときも,モールでつけたり木と木のあいだにつきさせたりみんなワクワクしていたところがよかった。【子ども2N】いちばんたのしかったのは,つくることがたのしかったです。
創意・工夫
について
【子ども2H】とても考える力をつかいました。【子ども2I】材料が3つでいろんな生き物を作ることができることがわかりました。【子ども2J】私は,今日,限られた数でふしぎな生物を作ることができたのがよかったです。【子ども2L】材料が3種類だけだったけど,ふしぎな生きものが作れてよかったです。【子ども2M】私は,ふしぎな生物をくまにしたときに,とても作るのがむずかしかったです。でも,最終的にはしっかりくまができたと思うので,よかったです。
達成感・意欲
について
【子ども2B】かっこいい虫ができてうれしかったです。【子ども2C】また,ワークショップにきたいです。【子ども2D】自分の作った生きものを,ひみつきちのちかくのたてものの場しょでぶらさげれて,帰るときにひみつきちのきちを見れたのでうれしかったです。【子ども2E】ここでは1つしか作れなかったけど,2こめのは家でつくってどっかにかざる。たのしかった。またこんどもしたい。【子ども2F】楽しかったです。【子ども2G】とても楽しかったです。とてもいいさくひんが作れました。また来年もできたらしたいです。【子ども2H】とても楽しかった。【子ども2I】作るのが簡単だったから,家でも作りたいです。またイベントがあったら行きたいです。【子ども2K】たのしかった。こすもすとかまいくとかつくってたのしかったです。いろんなことがありました。【子ども2N】きょうはたのしかったです。【子ども2O】たのしかった。またつくりたい。
周囲との関わり
について
【子ども2H】やさしくしてもらってうれしかったです。センスがいいと言われたときは,とってもうれしくて,よかったです。あとセンスが自分にあると初めてしりました。こんなにいいきかいなかなかありません。ありがとうございました。【子ども2O】ぎんフクロウはさいしょだったけん,ちょっとまよった。でもほかの人を見てちょっと気ぶんがわいてきた。
表4 「森の不思議な生き物をつくろう!」アンケート結果【保護者(4名を抜粋)】
【保護者2a】 家ではテレビやゲームなど既存のものに目がいきますが,何が出るかわからないわくわくと,不安あるものから作りだす想像力,いつもとちがう空間など,このような機会があって子供の親では出せない一面が見れてよかったです。可能性を引き出していただきありがとうございます。
【保護者2b】 子供の想像力を育む良い取り組みだと思います。今後も機会があれば是非参加したいです。元々工作は好きな子ですが,普段は作りたいものありきで材料を用意するのに対し,今回は限られた材料から作品を生みだすというのが良かったと思います。
【保護者2c】 2年生の娘と参加しました。「限られた材料で創意工夫して作品を作ること」そして,それを「森の中に展示すること」の2点が取組みとしてとても楽しかったです。5才の息子も楽しそうに活動していました。どうもありがとうございました。
【保護者2d】 材料は3つなのに,子どもが自由に組み合わせるだけで本当に様々な作品が生まれておもしろいなと思いました。またそれを「森の中に住まわせる」ということがとてもおもしろくてワクワクしました。今日のをヒントに「造形」というものをもう少し気楽に楽しみたいと思えました。(美術が苦手な母なので…)
表5 「森のソーシャラート・クエスト」アンケート結果【子ども(13名)】
素材(森)
について
【子ども3K】色々な形の木材があったので武器が作りやすかった。
用具・技法
について
【子ども3B】ものをたくさんつくったり,たんけんしたりしてたのしかった。【子ども3D】じゃんけんみたいなものがおもしろかった。【子ども3E】武器を作るのが楽しかった。【子ども3F】つくるのがたのしかった。大まおうのしろがテントでおもしろかった。【子ども3J】一番楽しかったのが武器を作ることです。わたしは弓矢と鉄砲をつくりました。
創意・工夫
について
【子ども3K】武器も使えるゲームを考えてみたいと思った。武器だけじゃなく鎧も作ってみたい。チームで対戦するのも楽しいのではないかと思った。【子ども3L】つぎやるときは,ひみつきちをつくりたいです。
達成感・意欲
について
【子ども3A】いろいろな武器がいっぱい作れて,楽しかったです。【子ども3C】たのしかった。またきたいです。【子ども3H】楽しかった。【子ども3J】今日,大学にきて,武器を作ったり,カードを作ったりして,たたかって色々なことをしてたのしかったです。作った武器で最後の大魔王を倒せたの面白かったです。シールも全部そろいました。雨だったけど雨具を着てやったので楽しかったです。また来たいです。【子ども3M】今までのワークショップ3つともぜーんぶ面白かったです。ワークショップ4も出してほしい。ありがとう‼
周囲との関わり
について
【子ども3C】せんせいたちありがとう。【子ども3E】ま王が強かった。【子ども3G】なかまときょうりょくして大ま王をたおせてよかったです。【子ども3H】大魔王と全部アイコになった。四天王は弱かった。【子ども3I】だいま王てごわかった。かみなりのほうがつよい【子ども3L】きょうりょくしたから,とてもじょうずに やっつけられました。
表6 「森のソーシャラート・クエスト」アンケート結果【保護者(3名を抜粋)】
【保護者3a】 子供たちは木片があるだけで楽しく色々な物を作って,いつまでも遊べるんだなと感じました。天気が良ければ森にも行ってみたかったです。
【保護者3b】 子供たちの豊かな発想で,ただの材木が様々な武器になっていく様子に感動しました。普段は,ゲームや市販のおもちゃで遊んでいるので,自分で好きなように作って遊ぶというのはいい経験になったと思います。クエストも初対面のお友達と仲良くやっていたので安心しました。楽しむ心は,みんな一緒なのだなと感じました。
【保護者3c】 初対面の子供同士で力を合わせて作業をし,グループで行動することで団結し,良い経験となりました。日頃はゲームばかりが多い中,森の中で走り回り,子供たちの笑顔を見ているととても癒されました。また来年も同様なイベントがあれば,ぜひ参加させていただきたいと思います。準備からいろいろと大変だったと思いますが,本当にありがとうございました。

4. アンケート結果からの成果と課題

(1) 子どものアンケート結果からの成果

3つのワークショップの活動を「造形遊び」の教材として位置付けるため,子どものアンケート結果(表1,表3,表5)で見られた特徴を,小学校学習指導要領(平成29年告示)5)の図画工作科の目標(表7)に当てはめることにする。参加した全ての子どもが小学生だったことを考慮して,図画工作科の目標を引用することにした。各ワークショップの実践内容が,その目標に沿ったものであるかを確かめ,その上で,「造形遊び」の意義とも一致しているかを検証する。なお,図画工作科の目標の詳細は,小学校学習指導要領解説(平成29年告示)図画工作編6)から引用した。

表7 図画工作科の目標
 表現及び鑑賞の活動を通して,造形的な見方・考え方を働かせ,生活や社会の中の形や色などと豊かに関わる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1)対象や事象を捉える造形的な視点について自分の感覚や行為を通して理解するとともに,材料や用具を使い,表し方などを工夫して,創造的につくったり表したりすることができるようにする。
(2)造形的なよさや美しさ,表したいこと,表し方などについて考え,創造的に発想や構想をしたり,作品などに対する自分の見方や感じ方を深めたりすることができるようにする。
(3)つくりだす喜びを味わうとともに,感性を育み,楽しく豊かな生活を創造しようとする態度を養い,豊かな情操を培う。

1) 「ヒミツ基地,作ろうぜ!」

・講師(指導者)からの助言や指示は極力控えることにし,森の中にある素材を自由に使って活動する中で,どんなものを作りたいか子ども自身が考え,素材に応じた使い方や,手順の工夫が見られた。【子ども1C,1D,1I,1N】(表1―創意・工夫について)。

目標(1)~自分の感覚や行為を通して理解するとは,児童が自分の視覚や触覚などの感覚,持ち上げたり動かしたりする行為や活動を通して理解することである。これは,児童が,自分の感覚や行為を通して理解することが大切であることや,児童自身の主体性や能動性を重視することを示すものであり,これらのことにより一人一人の児童が自分なりに理解を深めていくことになる。つまり,児童の感覚や行為を大切にした指導により,一人一人の理解が深まり,「知識」の習得となる。

目標(2)~創造的に発想や構想をしとは,自分にとって新しいものやことをつくりだすように発想や構想をすることである。形や色などを基に想像を膨らませる,造形的な活動や表したいことを思い付くなどの発想や,どのように活動したり表したりするかを考えるなどの構想をすることである。

・森の中で様々な素材に触れ,楽しみながら活動を行うことができた子どもが多く見られ,「もっとやりたい」という主体性が生まれた。【子ども1A,1B,1E,1F,1H,1I,1L,1N,1O,1P,1Q,1R,1S,1T,1U,1V,1W】(表1―達成感・意欲について)。

目標(3)~創造しようとする態度を養いとは,形や色などと関わり,自ら楽しく豊かな生活をつくりだそうとし,主体的に学習に向かったり,社会から情報を得たり,発信したりする,主体的に生きていく態度を養うことである。これは,意志や考えをもって学習に向かう中で,進んで生活や社会と関わる主体性が生まれていったり,社会と関わる中で,学習に向かう主体性が育まれていったりなど,相互に高め合うものとなる。

・みんなで協力して作り上げることの喜びを感じ,「学校などのいろんな場面で生かしていきたい」という思いに繋がった。【子ども1B,1K,1M】(表1―周囲との関わりについて)。

目標(3)~つくりだす喜びを味わうとは,感性を働かせながら作品などをつくったり見たりすることそのものが,児童にとって喜びであり,楽しみであることを示している。それは,児童の欲求を満たすとともに,自分の存在や成長を感じつつ,新しいものや未知の世界に向かう楽しさにつながる。また,友人や身近な社会との関わりによって,一層満足できるものになる。

2) 「森の不思議な生き物をつくろう!」

・材料との出会いを楽しんでいた。材料として使用したものは,毛糸やプラスチックカップなどの日常的なもので,子どもにも馴染み深いものであるが,それらを組み合わせることにより自分なりの新しい意味を創造することが出来ていた【子ども2A,2C,2F,2H,2I,2J,2L,2M】(表3―素材(森)について,創意・工夫について)。

目標(3)~学習の場,材料や用具,さらには人,時間,情報などといった児童を取り巻く環境の全てが,感性を育んでいる。また,感じるという受動的な面に加えて,感じ取って自己を形成していくこと,新しい意味や価値を創造していく能動的な面も含めて感性の働きである。

・材料を3つに限定したことで,材料の特徴をしっかりと観察することができた。その上で,3つの組み合わせにより何ができるかを,想像力を働かせ,真剣に考えている様子がうかがえた【子ども2H,2I,2J,2L,2M】(表2―創意・工夫について)。

目標(1)~対象や事象を捉える造形的な視点とは,材料や作品,出来事などを捉える際の「形や色など」,「形や色などの感じ」,「形や色などの造形的な特徴」などのことであり,一人一人が感性や想像力を働かせて様々なことを感じ取ったり考えたりし,自分なりに理解したり,何かをつくりだしたりするときなどに必要となるものである。

・制作や展示の体験を通して,面白さや楽しさを感じている子どもが多く見られた。形や色などを基に,自分自身で発想を膨らませ,目指す形を作り上げたことに満足している様子だった。今後の意欲にも繋がっていた【子ども2B,2C,2D,2E,2F,2G,2H,2I,2K,2N,2O】(表3―達成感・意欲について)。

目標(2)~造形的なよさや美しさとは,表現したり鑑賞したりするときに生じた感情や気持ちなどの,よさや美しさ,面白さや楽しさなどのことである。創造的に発想や構想をしとは,自分にとって新しいものやことをつくりだすように発想や構想をすることである。形や色などを基に想像を膨らませる,造形的な活動や表したいことを思い付くなどの発想や,どのように活動したり表したりするかを考えるなどの構想をすることである。

・周囲と関わることで,表現することの喜びを感じ,造形活動を楽しむことができていた【子ども2H,2O】(表3―周囲との関わりについて)。

目標(3)~つくりだす喜びを味わうとは,感性を働かせながら作品などをつくったり見たりすることそのものが,児童にとって喜びであり,楽しみであることを示している。それは,友人や身近な社会との関わりによって,一層満足できるものになる。

3) 「森のソーシャラート・クエスト」

・木材の端材の特徴を生かし,武器を作ることを楽しむ子どもが見られた。【子ども3B,3E,3F,3J,3k】(表5―素材(森)について,用具・技法について)。

目標(1)~材料や用具を使いとは,手や体全体の感覚などを働かせ,材料や用具の特徴を生かしながら,材料を用いたり用具を使ったりすることである。

・時間の制限があり,活動を大きく展開させることは難しかったが,制作活動やゲームを通して,「こういうものがあればもっと良くなる」といった工夫や,新しいゲームのルール(活動)を考えた子どもがいた。【子ども3K,3L】(表5―創意・工夫について)。

目標(1)~図画工作科においては,自分の思いを生かした創造的な活動を楽しむ過程を通して,「技能」を育成することが重要である。表し方などを工夫してとは,造形遊びをする活動において造形的な活動やつくり方を工夫することである。

アンケート調査において,ワークショップに参加した子どものほとんどが実践した内容に対して肯定的な回答をしていた。加えて,「ヒミツ基地,作ろうぜ!」「森の不思議な生き物をつくろう!」については,子どものアンケート結果で見られた特徴の多くが図画工作科の目標に沿ったものであった。「森のソーシャラート・クエスト」については,前半の武器やカードを作ることは造形的な活動であり,そのことに関する感想は図画工作科の目標に沿っている。しかし,後半のゲームの感想は図画工作科の目標に沿ったものとは言えない。このワークショップではアンケートの回収率が低く(子ども・保護者30.8%),客観的な裏付けにも乏しい。これらのことから,「ヒミツ基地,作ろうぜ!」「森の不思議な生き物をつくろう!」の実践内容は,図画工作科の目標に沿ったものであると考えられ,「森のソーシャラート・クエスト」の実践内容は,目標に沿ったものとは言い切れないであろう。

また,「ヒミツ基地,作ろうぜ!」「森の不思議な生き物をつくろう!」の子どものアンケート結果から,子どもが森という場所(空間)の特徴を踏まえて活動したことが分かる。さらに,材料の形や色などから思い付いて作ったり,活動の中で湧き出た気持ちを生かして,どのように表現するかを考えていた。2つのワークショップの実践内容が,小学校学習指導要領(平成29年告示)7)が示す「造形遊び」の「造形遊びをする活動を通して,身近な自然物や人工の材料の形や色などを基に思い付いてつくることや,感情や気持ちを生かしながら,どのように活動するかについて考えること」,「場所や空間などの特徴を基にした造形的な活動」とも一致していると言えるだろう。

(2) 保護者のアンケート結果からの成果

・【保護者1a】の「私は保育園で働いています。~(中略)~自園にも森があるので,こんなワークショップができたらいいなぁ。とてもいい参考になりました。」との意見から,現場の保育士にとって,「ヒミツ基地,作ろうぜ!」が実践の参考になったことが分かった(表2)。

・【保護者1b,1c,2c,2d】の意見から,「森を舞台にした活動」に対しての高い評価がうかがえる(表2)。「ヒミツ基地,作ろうぜ!」「森の不思議な生き物をつくろう!」の活動が,小学校学習指導要領(平成29年告示)8)が示す「造形遊び」の「場所や空間などの特徴を基にした造形的な活動」であったことを表している。

・【保護者1b,2a,3b,3c】の意見から,普段の子ども達がゲームや市販のおもちゃで遊んでいる様子が見て取れる。【保護者1b】が「(森のような自然環境の中で遊ぶことで)既成のおもちゃでは育みにくい好奇心や探究心のようなものが育つのではないかと思います。」と述べているように,自然豊かな環境の中で,いろんなものに触れ,自ら発想していくことの重要性が保護者にも伝わったと思われる(表2,表4,表6)。

・【保護者2a】は「普段は作りたいものありきで材料を用意するのに対し,今回は限られた材料から作品を生みだすというのが良かった」という意見を述べている(表4)。「森の不思議な生き物をつくろう!」の活動が,小学校学習指導要領(平成29年告示)8)が示す「造形遊び」の「身近な自然物や人工の材料の形や色などを基に思い付いてつくること」だったと言っていいだろう。また,【保護者2a】の意見は,A表現(1)の「造形遊びをする活動」とA表現(2)「絵や立体,工作に表す活動」の違いをも言い表しており,【保護者2a,2c,2d】にも同様の意見が見られることから(表4),保護者に対して広く「造形遊び」の意義が伝わったと考えられる。

・【保護者3a】の意見から,悪天候のために準備した木材の端材が十分に役割を果たせたことがうかがえる。しかし,「森を舞台にした活動」が出来なかったことを残念に思う意見があった(表6)。

(3) アンケート結果からの課題

1) 「ヒミツ基地,作ろうぜ!」

終始,森の中での制作となったことで,森の楽しさを知り,自然を身近に感じることができていた【子ども1A,1D,1F,1G】(表1―素材(森)について)。また,活動を楽しむ過程の中で,自ら用具を工夫して使えていた【子ども2C,2D,2I,1N】(表1―創意・工夫について)。その反面,自然の中にある危険な形をしたものに安易に触れたり,作業に夢中になり用具の使い方を誤っている子どもが見られ,怪我をしてしまう子どもがいた【子ども1X】(表1―用具・技法について)。ワークショップの最初に,講師(指導者)は森の中での過ごし方を子ども達に伝えていたが,森の中での危険や用具の使い方について,さらに丁寧な説明が必要だろう。

2) 「森の不思議な生き物をつくろう!」

子どものアンケート結果では,用具・技法についての意見が少なかった【子ども2C,2N】(表3―用具・技法について)。活動に用いた紙,プラスチック,布などの異素材は,グルーガンで接着するという方法に限られ,下学年では火傷の恐れから大人の手を借り,逆に上学年では簡単すぎて,用具・技法について深く考える機会がなかったことが原因だと思われる。

3) 「森のソーシャラート・クエスト」

悪天候のため,危険を考慮して森に入ることを取りやめた。材料は,替わりに様々な形の木材の端材を準備し,ゲームの内容も変更なく行えたことで,子どもは十分に楽しめたと思われる【子ども3A,3C,3H,3J,3M】(表1―達成感・意欲について),しかしながら,「森を舞台にした活動」という本来この事業が目指すものには至らず,その目的は半減したと言わざるをえない。アンケート結果に素材(森)のことについて,あまり意見がなかったことにも表れている【子ども3K】(表5―素材(森)について)。悪天候の際の対応に課題が残った。

5. まとめ

これまでの「造形遊び」に関する研究について見てみると,吉村(2017年)9)は,小学校学習指導要領で記述されているA 表現(1)の「造形遊びをする活動」とA表現(2)「絵や立体,工作に表す活動」の表現観の違いを挙げながら,図画工作の「造形遊び」の概念について考察している。また,石倉(2006年)10)らは,「自然材」に注目し,砂,泥粘土,赤土を使った幼児の「造形遊び」について事例的考察を行っている。このように,「造形遊び」の概念や歴史,活動に用いる材料などに焦点を当てた先行研究は見られるが,小学校学習指導要領(平成29年告示)11)が示す「場所や空間などの特徴を基にした造形的な活動」について論じられた研究は,その重要性に反して決して多いとは言えない状況にある。さらに,前回の研究12)でも述べたように,現場教員が,「造形遊び」を行うことに戸惑いを感じていると思われ,実践的な教材開発が急がれる。

本研究では,子どもと保護者それぞれのアンケート結果からの成果により,「あかま造形教室の森Vol. 2」での「ヒミツ基地,作ろうぜ!」「森の不思議な生き物をつくろう!」の実践内容が,図画工作科の目標に沿ったものであり,「造形遊び」の内容とも一致していることが分かった。2つのワークショップの活動を「造形遊び」の教材として位置付けてよいと思われる。しかし,「森のソーシャラート・クエスト」については,ゲームを伴う実践内容だったことから,アンケート結果の特徴を図画工作科の目標に結びつけることが出来なかった。悪天候のために「森を舞台にした活動」が出来なかったこともあり,この活動を「造形遊び」の教材として位置付けることは難しい。

課題として,森の中での活動にあたって,子ども達への危険の周知や用具の使い方の指導が徹底出来ていなかった。参加した子どもが下学年から上学年と年齢の幅が広かったことも徹底できなかった要因と考えられる。講師(指導者)は事前に森の中の危険を把握し,それを子ども達に伝え,用具の使い方の説明にも年齢に応じて十分時間をかけることが大切であろう。また,悪天候の際の対応に課題が残った。雨が降ると森の中は足元がぬかるみ,とても危険であるため,そこで活動するのは困難となる。「造形遊び」は,どの場所(空間)で活動を行うかが重要になることから,日程に余裕を持ち,延期して当初の場所で実施することを考慮に入れる必要があった。

最後に,あらためて「造形遊び」の内容について確認すると,小学校学習指導要領(29年告示)解説図画工作編では,「児童が材料などに進んで働きかけ,自分の感覚や行為を通して捉えた形や色などからイメージをもち,思いのままに発想や構想を繰り返し,技能を働かせてつくること」であり,「児童が材料や場所,空間などと出会い,それらに関わるなどして,自分で目的を見付けて発展させていくことになる」と記している13)。「あかま造形教室の森」アートプロジェクトは,「造形遊び」の最初の一歩である「材料や場所,空間などとの出会い」を実現するために実施された。「ヒミツ基地,作ろうぜ!」「森の不思議な生き物をつくろう!」の活動では,森そのものが教材であり,森の豊かな自然から子ども達がいろんなことを感じ,学習していることが,アンケート結果や活動の様子を見て分かる。また,このような親子が参加するワークショップは,「造形遊び」が子どもに与える教育効果を保護者が理解することにつながっていると考えられ,社会的な役割も大きい。さらには,現場の保育士が「ヒミツ基地,作ろうぜ!」に参加し,実践の参考になったことは大きな成果だと言える。

前回の「あかま造形教室の森Vol. 1」を通した研究に続き,本研究において,活動を行う場所や空間という要素が「造形遊び」に与える可能性が明らかとなり,教育現場で地域の素材を活用する際の指針を示せたと考える。

注1)  「あかま造形教室の森」アートプロジェクトは,平成30年度宗像市文化芸術活動事業補助金の助成を受けて開催された。

*1 The “THE ART CLASS IN THE FOREST—AKAMA” art project was subsidized by the Munakata City Cultural Arts Activity Project Subsidy in 2018.

注2)  活動の経過での人物写真は,本人及び保護者の許可を得て撮影・掲載した。

注3)  活動の経過での人物写真は,本人及び保護者の許可を得て撮影・掲載した。

注4)  活動の経過での人物写真は,本人及び保護者の許可を得て撮影・掲載した。

文献
 
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