人間科学
Online ISSN : 2434-4753
実践報告
九州産業大学在学生におけるCOVID-19
江田 佳子中山 百合子濱田 やえみ太田 美枝子辻 利恵坂井 英治堀内 公代田丸 英雄村谷 博美
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2022 年 4 巻 p. 41-48

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抄録

九州産業大学では,2020年3月末から2021年1月末までの約10カ月間にCOVID-19の患者が学生,教職員を含め62人発生した。60人が学生である。九産大生の罹患率は,男0.684%,女0.286%であった。7月の学内クラスターが起こらずに済んでいれば,男の罹患率は0.539%となり,男女ともに,福岡県の20歳代の罹患率に比べて有意に低くなる。密や不要・不急の外出の回避,マスクの着用,手指消毒などの対策が効果を挙げており,学内クラスターの発生を防ぐことが今後の課題である。一方,福岡市や北九州市以外の福岡県在住学生の罹患率は,同条件の20歳代一般住民の罹患率よりも有意に高い。長時間をかけての遠距離通学が感染リスクになっていると考えられた。また,学生の不安に応じることも重要である。

Abstract

We detected 62 COVID-19 patients in Kyushu Sangyo University, from the end of March, 2020 to the end of January, 2021. Of these, 60 patients were students. The incidence during in the Kyushu Sangyo University students for the 10-month period was 0.684% for men and 0.286% for women. The value for women was statistically significantly lower than that in the general population of Fukuoka prefecture. In July, we experienced an outbreak of COVID-19 on campus. If the outbreak had not occurred, the incidence in men went down to 0.539%, and the difference of the incidence between the Kyushu Sangyo University students and the general population of Fukuoka prefecture became statistically significant. We recommended avoidance of crowded places, avoidance of unnecessary and unurgent going out, wearing of face mask, and using hand sanitizer. These data of incidence suggest a good compliance of the students to the recommendation. We need to take measure to prevent an outbreak of COVID-19 on campus. Considering the high incidence of COVID-19 in the male students residing in Fukuoka prefecture other than Fukuoka city or Kitakyushu City, long time commuting to the university has raised the infection risk. Furthermore, we noticed an importance of facing anxiety of the students and reducing it.

1. 緒言

2020年はコロナで明け,コロナで暮れた。2020年秋からのいわゆる第3波は2021年に入っても続いた。2019年末に中国で発生した新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)は,2020年になって全世界に拡がった。日本でも1月から散発的な患者発生が見られるようになり‍1),特にダイヤモンド・プリンセス号の船内での集団発生や‍2)著名なタレントの発病と死亡が全国ニュースで取り上げられてからは,一般の人々にもこのパンデミックが容易ならざる事態であると認識されるようになった。九州産業大学(以下,九産大)では,学位授与式も入学式も規模を縮小して行い,定期健康診断も2,3年生は実習等で是非必要な学生に限り,授業は多くが遠隔授業で実施された。このような措置にも拘わらず,九産大では2021年1月末までに,COVID-19患者が62人発生し,そのうち60人が学生であった。

新興感染症はCOVID-19だけではない。今世紀に入ってからも,SARS,MERS,新型インフルエンザ,ジカウイルス感染症など,数年に1度は人類が初めて出会う感染症が出現している。したがって,今後もパンデミックを経験する可能性がある。今回の経験を客観的に評価し,記録を残すことは,次の新興感染症に備えるためにきわめて重要である。

九産大では,2020年3月25日以降,学生や教職員のCOVID-19の発生を全例登録する体制を整えた。このシステムでは,COVID-19患者に接触した学生や教職員,接触歴が明らかでなくとも,発熱や全身倦怠感,咳,咽頭痛など,何らかの症状がある学生や教職員も,保健室に連絡するようにし,COVID-19感染者を漏れなく拾い上げることを目指した。

本論文では,2021年1月末までの学生の感染状況をまとめ,福岡県の20歳代における発生状況と比較し,本学の対応の是非を検討した。

2. 方法

(1) 対象

2020年度に九産大に在籍していた学生を対象にした。九産大のホームページ‍3)に,2020年度5月1日現在の在籍数が掲載されている。学部生は男7,534人,女2,746人で,大学院生は男70人,女50人で,合わせると男7,604人,女2,796人であった。これらの学生に,必要に応じて保健室に電話連絡するよう呼びかけた。

(2) 相談体制

学内外でCOVID-19患者と接触した学生は,疑い例も含めて全員,保健室に相談の電話を入れるように指示した。保健室のスタッフは学生を支える姿勢を示しながら,管轄の保健所に連絡して,その指示に従うようアドバイスするとともに,各例を追跡した。また,接触歴が明らかでなくとも,発熱や全身倦怠感,咳,咽頭痛など,何らかの症状がある学生も,保健室に連絡をするよう指示し,必要だと判断すれば,近隣の医療機関に連絡したうえでの受診を勧め,これも追跡した。保健室に直接連絡することがなく,担任の教員や教務部や学生部などの職員に相談があった場合には,本人の了解を得て保健室職員からコンタクトをとった。こうして学内ではPCR検査も抗原検査も出来なかったが,必要な例は全員,PCR検査(一部で抗原検査)を受けることが出来,かつその結果を保健室で一括して収集できる体制を整えた。

(3) 一般社会におけるCOVID-19の発生状況との比較

福岡県内の全患者について報告日,10歳刻みの年齢層,居住地,濃厚接触の有無が公表されている‍4)。これに基づいて福岡県の20歳代の感染者のデータと九産大生のデータを比較した。一般住民中の感染率の推定には,2020年9月現在の福岡県人口移動調査で報告された年齢別人口‍5)と市町村別人口‍6)を用いた。九産大生の居住地別の罹患率を算出するためには,学内で「学生カルテ」として公開されている居住地別の学生数を用いた。

(4) データ分析

保健室に相談のあった例を,全てエクセルファイルに登録した。2020年度後学期の授業と試験は2021年1月に終了し,2月には多くの学生が帰省・帰国して,相談件数は激減した。本研究では2020年3月25日から2021年1月31日までの九産大生のデータを解析した。COVID-19の診断は,症状の有無には拠らず,PCR検査もしくは抗原検査の陽性者を感染例とした。統計解析にはエクセル統計‍®(BellCurve社)を用いた。性別,感染の有無,居住地,居住形態については,クロス集計表を作成した。度数が10未満のセルがあったので,Fisherの直接確率検定を行った。P<0.05を有意とした。

この研究計画は九州産業大学倫理委員会の審査を受け,研究の実施について承認された(2020-0012号)。

3. 結果

(1) COVID-19感染者数

九産大では2020年の3月25日以降,電話相談のシステムを整え,学生に対応した。その直後から相談があったが,感染者が出たのは7月に入ってからであった。7月には学内の某サークル内や就職先の企業が主催する研修会でのクラスター発生があり,男子学生の感染者が増えた。いわゆる第2波に相当する時期である。その後,9~11月の感染発生は少なかったが,12月に入って増え始めた。これは第3波に相当する。感染者の多い月は,非感染相談者も増えていた(図1)。

図1 2020年3月25日から2021年1月31日までの九産大の電話相談の件数,感染者の発生,福岡県の20歳代感染者の発生

九産大生で3月25日から1月31日までの間にCOVID-19に感染したのは,男52人,女8人であった。感染=罹患として,感染者数を大学のホームページ‍3)に掲載された男女の学生数で割った罹患率は,それぞれ0.684%と0.286%で,男女を比べると女子学生の罹患率が有意に(P=0.019)低い。なお,7月の学内クラスターが発生せずに,学外で感染した発端者を除く11名が陰性であったならば,男の感染者は41人にとどまり,その場合には,罹患率は0.539%と算出される(表1)。

表1  九産大学生および福岡県の20歳代住民におけるCOVID-19感染
男に7月の学内クラスターが
発生しなかったと仮定した場合
九産大 福岡県 九産大 福岡県 九産大 福岡県
非感染 7,552 259,644 非感染 7,563 259,644 非感染 2,788 261,374
感染 52 2,113 感染 41 2,113 感染 8 2,114
罹患率(%) 0.684 0.807 罹患率(%) 0.539 0.807 罹患率(%) 0.286 0.802
P=0.268 P=0.009 P<0.001

同じ期間の福岡県20歳代の感染者数は,男2,113人,女2,114人で,罹患率は0.807%と0.802%であった(表1)。九産大生は男女ともに一般住民より低い値を示し,その差は女では有意であったが(P<0.001),男では有意ではなかった。しかし,学内クラスターが発生しなかったと仮定すると,一般住民よりも有意に低い罹患率となる。また,福岡県の日毎の全発症データ‍4)に基づき,便宜的に6月21日から10月16日までを第2波,その後を第3波として,学内および福岡県の20歳代住民中の感染数の推移を調べた。九産大生の男では,有意に第2波が高く,その分,第3波が抑えられたように見えたが,学内クラスターが発生しなかったと仮定すると,一般住民と同じ経時パターンとなった(図2)。

図2 九産大生と福岡県20歳代住民における感染者発生の経時的なパターン―第2波と第3波の割合

(2) 九産大の感染者の特徴:福岡県20歳代の感染者との比較

感染者の多くは男女とも,学外で感染したと考えられた。また,本人への濃厚接触歴が明らかな例が多かった。濃厚接触が明らかな例の割合は,男女とも福岡県20歳代の患者より有意に高かった。

感染者の居住地を見ると,男では大半が福岡市内に居住し,女では福岡市内・市外に居住していた。福岡県20歳代の患者と比べると,男では福岡市内居住者の割合が有意に高かった(P<0.001)。7月の学内クラスターが発生しなかったと仮定しても,福岡市内居住者の割合が有意に高かった(P=0.001)。女では,九産大と福岡県20歳代の患者との間に,居住地の分布に有意差はなかった(図3)。

表2  九産大生および福岡県20歳代住民のCOVID-19感染者における先行する濃厚接触の有無
男に7月の学内クラスターが
発生しなかったと仮定した場合
実数(人) なし あり 実数(人) なし あり 実数(人) なし あり
九産大 14 38 九産大 14 27 九産大 1 7
福岡県 1,216 897 福岡県 1,216 897 福岡県 1,109 1,005
P値(福岡県vs九産大) <0.001 P値(福岡県vs九産大) 0.004 P値(福岡県vs九産大) 0.032
割合(%) なし あり 割合(%) なし あり 割合(%) なし あり
九産大 26.9 73.1 九産大 34.1 65.9 九産大 12.5 87.5
福岡県 57.5 42.5 福岡県 57.5 42.5 福岡県 52.5 47.5
図3 九産大生と福岡県20歳代住民における感染者の居住地分布(グラフ内の数値は感染者の実数)

これを罹患率で見たのが表3である。男では,福岡市内在住者の罹患率は,九産大と20歳代一般住民との間に有意差がなかったが,7月の学内クラスターが発生しなかったと仮定した場合には,九産大生の罹患率が0.815%になり,20歳代一般住民の罹患率1.197%との間の差が有意となった(P=0.028)。福岡市や北九州市以外に居住する九産大生の罹患率は,福岡県20歳代の患者に比べて有意に高かった(P=0.005)。女では,福岡市内在住の九産大生の罹患率が0.234%で,福岡県20歳代人口における1.183%に比べて有意に低かった(P<0.001)。

表3  九産大生および福岡県の20歳代住民における居住地別のCOVID-19罹患率(%)
福岡市 福岡市* 北九州市 左記以外の
福岡県
福岡市 北九州市 左記以外の
福岡県
九産大 1.079 0.815 0.556 0.502 九産大 0.234 0.369 0.352
福岡県 1.197 1.197 0.524 0.125 福岡県 1.183 0.561 0.478
P値
(九産大vs福岡県)
0.560 0.028 1.000 0.005 P値
(九産大vs福岡県)
<0.001 1.000 0.804

福岡市*:学内クラスターが発生しなかったと仮定した場合の福岡市内居住者の感染率

(3) 九産大の感染者の特徴:男女別に見た非感染者との比較

4に示したように,男女とも,感染が明らかになる前に他のCOVID-19患者から濃厚接触を受けた割合は,相談のあった中で非感染者が濃厚接触を受けた割合に比べて有意に高かった(男女ともにP<0.001)。

図4 九産大生の感染者と相談のあった非感染者における濃厚接触者の割合(グラフ内の数値は感染者/非感染者の実数)

居住地の分布を相談のあった感染者と非感染者で比較すると,男の感染者では福岡市在住者の割合が非感染者よりも有意に高く,福岡市や北九州市以外の福岡県在住者の割合は有意に低かった(P=0.001)。7月の学内クラスターが発生しなかったと仮定しても,この有意性は残った(P=0.008)。女の感染者では,福岡市在住者の割合が非感染者よりも低く,福岡市や北九州市以外の福岡県在住者の割合が高かった。その分布の差は有意ではなく,感染者の人数が少ないためだと考えられた。(図5)。

図5 九産大生の感染者と相談のあった非感染者における居住地分布(グラフ内の数値は感染者/非感染者の実数)

(4) 九産大の感染者の特徴:その他

発症や濃厚接触と認定されてから,保健室に相談するまでの日数を見ると,男の7割以上,女の6割以上が3日以内に相談の電話を入れていた。感染が分かるとホテル療養を指示された学生が,男女とも6割前後を占めたが,自宅にとどまるよう指示された学生も4割弱いた。この措置により,家族内感染が拡がったかについては,検討していない。男で肺炎を指摘された学生が3人おり,2人は入院が必要であったが,全員が回復し,死亡した学生はいなかった。

感染が判明したり,濃厚接触者だと認定されたりして報告が入った学生は,男女合わせて167人であった。彼らには,保健所の指示に従うようアドバイスした。表4には,それ以外の234人の内訳を示した。受診を勧め,実際に医療機関を訪れたのが111人,そのうちPCR検査の受検が必要とされたのは59人で,陽性だったのは1人であった。医療機関に電話で相談したのが8人,保健室での対応で済んだのが115人で,そのうち44人は濃厚接触が疑われ,登校についてのアドバイスを求めるものであった。最終的に濃厚接触者ではないとされた学生も,結論がでるまでは大学の方針として登校を禁じたので,その間の授業について担当教員との仲立ちが必要であった場合もある。

表4  保健室への相談電話への対応(感染が判っていた者と濃厚接触被認定者を除く)
医療機関受診を勧めた 保健室での対応のみ
受診したが
PCR不要
受診し
PCR指示
(陽性)
受診し
PCR指示
(陰性)
医療機関に
電話相談
医療機関
受診勧奨
合計
症状への
対応
濃厚接触が
疑われた*
保健室での
対応のみ
合計
34 1 43 7 85 50 32 82
18 0 15 1 34 21 12 33
P値
(合計値につき
男vs女)
0.393

* 最終的に濃厚接触者ではないとされたが,結論が出るまで登校を禁じ,他用での外出も控えるよう指導

4. 考察

(1) 感染防御の方策

COVID-19はSARS-CoV-2と名付けられた新型コロナウイルスによる新興感染症である。日本では,2020年2月1日から2021年1月31日までの1年間に390,816人の罹患者と5,753人の死亡者が報告され‍7),致死率は1.47%と算出される。同じ呼吸器系のウイルス感染症である季節性インフルエンザについては,罹患数が2018–19年のシーズンには約1,170万人で‍8),死亡数が2018年には3,325人,2019年には3,575人‍9)であったと報告され,致死率は0.028~0.031%になる。すなわち,COVID-19は,日本では季節性インフルエンザの約50倍の致死率を示す。感染防御は,非常に重要な公衆衛生課題である。そして,COVID-19の無症候感染者は,有症状者に比べて感染力は1/3~1/25と低いものの,新たな感染源となりうる‍10)。したがって,感染防御の方策は全ての人が対象となり,自分が感染しないことと共に,他の人に感染させないことを目指す必要がある‍11)

九産大では2020年の春から,学生や教職員に対し,密の状態や不要・不急の外出を避け,密集を防ぐために大半の授業を遠隔授業に切り替え,登校時やアルバイトなどに際してはマスクを着用し,手指の消毒を頻繁に行うよう勧奨している。これらの方策は,いずれもその有効性を主張する論文があるが‍12)~15),必ずしも十分ではないかも知れない。検温も勧奨したが,その効果を疑問視する研究‍16)がある。しかし,大学で感染者を検出するのに検温は有用だったという検討もなされており‍17),キャンパス内の感染リスクを低減するのに役立つという期待から,学生や教職員に検温を勧めた。

(2) COVID-19感染者数

九産大生では,2020年7月に初めてCOVID-19患者が出て,翌年の1月末までに60人が感染した。PCR検査や抗原検査で陽性となれば患者とみなし,学生数で割って罹患率を算出した。表1に示したように,女では一般住民よりも有意に低かった。男でも,某サークルにおける学内クラスターの発生がなかったならば,罹患率は一般住民より有意に低くなった。多くの学生が,上に述べた感染防御の方策を守った結果だと考えている。九産大生では感染に先立つ濃厚接触が判明している割合が,一般住民よりも高いことも(表2),彼らが自分の外出履歴をきちんと記憶していることを示すものであろう。

今後は,学内クラスターの発生を防ぐ有効な手段を考えることが課題である。一つは,濃厚接触者対策であろう。濃厚接触があると,感染リスクが高まることは九産大生でも明らかであった(図4)。7月の学内クラスターの発端者も,学外で濃厚接触を経験していた。ワクチン接種が普及し,有効な治療法が開発されるまでは,濃厚接触者は保健所の指示に従って,14日間の自宅待機を守ることが必要であろう。これは,家庭内で発端者と濃厚接触した185人の追跡研究で,109人がCOVID-19に罹患し,そのうち15人は10日目を過ぎての発症であった‍18)ことからも支持される。

本学では,サークル活動を行うにあたってのガイドラインを学生部で作成し,これを守らせることで学生同士,あるいは学生と指導者の濃厚接触を避ける手立てを講じている。このような努力を続けるとともに,活動前後の準備やシャワー室で互いの距離を保つことや,不要な会話を避けることにも一層の注意を払いたい。

しかし,今後,対面授業が増え,教室内での接触機会が増えると,上述したような方策のみで十分かは,断定できない。4月以降の感染状況を注意深く見守る必要がある。

(3) 九産大生の感染者の居住地別に見た罹患率

特に男で明らかであったが,福岡市在住の感染者の割合が高かった(図3)。しかし,罹患率を見ると,7月の学内クラスターの発生がなかったならば,福岡市在住の九産大生の罹患率は20歳代一般住民の罹患率よりも有意に低い。感染者数のみを見ているのは片手落ちであろう。実際,福岡市や北九州市以外の福岡県内に在住する学生の罹患率は,20歳代一般住民の罹患率よりも有意に高い(表3)。これらは,福岡市までの通学が感染リスクになっている可能性を示唆する。

人口集団を感受性者,感染してから感染性を持つまでの感染性待ち時間の状態にある者,感染性者,隔離・回復者の四つの区分に分けた数理モデルをSEIRモデルという‍19)。COVID-19についてSEIRモデルを構築し,感染リスクを評価すると,飲食店の時短強化よりも飛沫防止策の徹底やテレワーク,イベント制限などの総合的な対策が大きな効果を示すことを主張する研究もある‍20)。大学では対面授業の実施に力を注ぐのは当然であろうが,遠隔授業も積極的に併用して,遠方に住んでいる学生や持病のある学生は,長時間をかけての遠距離通学をしなくて済むような仕組みを取り入れることも考えてよい。

(4) COVID-19感染拡大をうけての学生の不安

COVID-19の感染拡大は大学生の間に大きな不安をもたらし,うつ状態に陥った者もいる‍21)22)。九産大では,不安を訴える学生に対して学生相談室が対応してきた。しかし,COVID-19は感染症であり,保健室のスタッフが電話相談を受け持っていたので,保健室でのメンタルケアも非常に重要であった。たとえば,保健室に相談のあった学生の居住地を見ると,男の非感染者では,福岡市や北九州市以外の福岡県在住者の割合が有意に高かった(図4)。彼らは,遠距離通学で感染リスクが高まることを知っており,僅かな症状でも不安を感じて相談してきた学生が多かったと推測している。非感染の相談者数が第2,3波の時期に増えたことも(図1),社会における感染者の増加が報じられると,不安が高まる学生がいることを示すものであろう。あらかじめ判った感染者と濃厚接触者を除く234人の中からは,PCR検査での陽性者は1人しか出ず,111人は電話相談のみで納得したという結果(表4)も,学生の不安にきちんと向き合うことの大切さを示すものであろう。我々は,学生の不安を受けとめ,これを軽減する努力が大学におけるCOVID-19対策の大きな柱になると考えている。

謝辞

多くの学生を保健室につないで下さった教員や事務職員の皆様に深謝いたします。本論文に関して,開示すべきCOI状態はありません。

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