人間科学
Online ISSN : 2434-4753
研究論文
教員養成課程における知的障害児の心理・生理・病理に関する学びの促進 ~書籍のテキストマイニングを通して~
阪木 啓二
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2023 年 5 巻 p. 14-19

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抄録

本研究では,特別支援教育に関する教員養成課程におけるテキストや特別支援学校をはじめとした教員への入門書をテキストマイニングすることで,知的障害に関する心理・生理・病理の説明の状況を把握することである。抽出した頻出語には知的障害の定義におけるキーワードが盛り込まれていた。テキストマイニングをすることで,知的機能や適応能力といった特徴語どうしの共起関係を確認することが出来た。また,必要な支援や原因の分類など語の類似性を知ることができるなど,教員養成課程の学生の学びにおける軸となる学習事項が示唆された。

Abstract

In this study, texts in teacher training courses on special needs education and introductory books for teachers at special needs schools were text-mined to grasp the state of explanations of psychology, physiology, and pathology related to intellectual disabilities. The extracted frequent words included keywords in the definition of intellectual disability. By further analysis, we were able to confirm the co-‍occurrence relationship between characteristic words such as intellectual function and adaptive ability. In addition, it is possible to know the similarity of words such as the necessary support and the classification of causes, and it suggested a learning axis for students in the teacher training course.

1. 問題と目的

2016年12月の中央教育審議会答申「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」を踏まえ,2017年4月に文部科学省は「特別支援学校幼稚部教育要領」,「特別支援学校小学部・中学部学習指導要領」の改訂告示を,続いて2018年12月に「特別支援学校高等部学習指導要領」の改訂告示を公示した。特別支援学校等の学習指導要領のポイントの1つとして,「障害のある子供たちの学びの場の柔軟な選択を踏まえ,幼稚園,小・中・高等学校の教育課程との連続性を重視」したことがあげられる。資質・能力の育成を目指す「主体的・対話的で深い学び」において,学校教育を通して育成を目指す資質・能力の育成を「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」と3つの柱で整理されたが,インクルーシブ教育システムの構築を背景に,知的障害者である子供に対する各教科においても,この3つの柱に基づき整理がされた。つまり,特別支援学校(知的障害)の各教科の目標及び内容について,小学校等の各教科と同じ視点や手続きで見直し,さらに特別支援学校(知的障害)と小学校等の双方の各教科の目標及び内容を照らし合わせて,その系統性と関連性を整理するということになる。

また,文部科学省は特別支援教育を担う教師の養成の在り方等に関する検討会議1) において,「特別支援学級・通級による指導を担当する教師には,小学校等における特別支援教育の中心的な役割を担う役割や自立活動や発達障害等に関する専門性や実践力,特別支援学校の教師には障害の状態や特性及び心身の発達の段階等を十分把握して各教科等や自立活動の指導等に反映できる幅広い知識・技能等が求められている。」とある。障害の状態や特性及び心身の発達の段階等を十分把握することが教員養成,特に特別支援教育に携わる場合には求められることになる。

障害の状態や特性及び心身の発達の段階等を十分把握することについて,知的障害者に関する教育の領域における特別支援学校教諭免許状取得にあたっては,「知的障害のある幼児,児童又は生徒の知的障害の要因となる病理面や併存症・合併症と心理面及び生理面の特徴並びにそれらの相互作用について理解し,幼児,児童又は生徒一人一人の知的障害の状態や適応行動の困難さ及び認知の特性を理解するとともに,家庭や関係機関との連携について理解する。」2) ことを目標とする科目に,「心身に障害のある幼児,児童又は生徒の心理,生理及び病理」がある。

本研究では,新しい学習指導要領告示以降に発行された「特別支援教育」のテキストあるいはテキストに準じる書籍(以降,書籍と記す)において,知的障害者に関する心理・生理・病理がどのように説明されているかについて,「コンピュータによってデータの中から自動的に言葉を取り出し,さまざまな統計手法を用いた探索的な分析を行う」テキストマイニングの方法を用いて分析をしたい。テキストマイニングにより,障害の状態や特性及び心身の発達の段階等についての説明・データの出現パターンやルールなどを把握し,現況により添った形で学生が特別支援教育,特に知的障害教育を学ぶことにつなげられると考える。

2. 方法

(1) 分析の対象と内容

2018年以降に発行された「特別支援教育」と記載されている書籍で,大学や短期大学等の授業で障害児・者の教育や福祉を学ぶ学生を対象として編集された教科書や,特別支援学校をはじめとした教員への入門書などとして書かれている13冊を対象とした(表1)。

表1  「知的障害児の心理・生理・病理」を抽出した書籍一覧
第1編著者 発行年 書籍名 出版社名
河合康 2018 わかりやすく学べる特別支援教育と障害児の心理・行動特性 北樹出版
廣瀬由美子 2019 特別支援教育 ミネルヴァ書房
松浦俊弥 2019 障害のあるこどもへのサポートナビ 特別支援教育の理解と方法 北樹出版
宮川充司 2019 子どもの発達と学校 特別支援教育への理解 ナカニシヤ出版
大塚玲 2019 教員をめざすための特別支援教育入門 萌文書林
立花直樹 2019 障害児の保育・福祉と特別支援教育 ミネルヴァ書房
梅永雄二 2019 みんなで考える特別支援教育 北樹出版
花熊暁 2020 特別支援教育概論 建帛社
是永かな子 2020 やさしく学ぶ教職課程 特別支援教育 学文社
小谷裕実 2020 小・中学校の教師のための特別支援教育入門 ミネルヴァ書房
向後礼子 2020 学校現場にいかす特別支援教育ワークブック ミネルヴァ書房
咲間まり子 2020 特別支援教育・障害児保育入門 建帛社
松浪健四郎 2021 特別支援教育 中山書店

知的障害に関する心理・生理・病理として抽出する箇所として,節や項等のタイトルにおいて「心理・生理・病理」をはじめ,「知的障害の定義」,「知的障害の原因」,「知的障害の特性」と記載のあったものとした。なお,対象となる書籍において出現頻度が高く,かつ文言の記載内容が同一であるアメリカ精神医学会が定めている「精神疾患の診断と統計マニュアル」における知的障害(知的発達症)の診断基準に関する部分は,結果が偏向する可能性があることから抽出の対象外とした。

(2) 手続き

対象となる書籍から得られた「知的障害児の心理・生理・病理」に含まれる単語を抽出し,テキストマイニングを行い,データの分析を行う。

分析を行うに際し,本研究ではKH Coder Version 3.Beta.043) を使用し,①頻出語の抽出,②階層的クラスター分析,③共起ネットワークの手法で分析をすることとした。

①頻出語の抽出では,出現回数が多いものを抽出し,分析する。なお,原文でどのように使用されているかを確認し,例えば「知能検査」が「知能」と「検査」へと分割して抽出されていた場合には「知能検査」と一語で切り出せるように強制抽出の設定をする。

②共起ネットワーク分析では,文章中に出現する語と語が共に出現する関係性を捉え,分析する。

③階層的クラスター分析では,類似性の高い語どうしをグループ化し,分析する。

3. 結果と考察

(1) 頻出語の出現傾向による分析

前処理段階において一語で抽出出来るように設定した語は,「知的機能」,「知的障害」,「染色体」,「日常生活」,「社会生活」,「知能検査」,「知的障害児」,「適応行動」,「適応能力」,「社会的」,「社会性」,「生理型」,「具体的」,「特別支援」以上の14語である。

前処理段階において,書籍から得られた総抽出語数(使用)は10,903(4,598)で,異なり語数(使用)は1,524(1,223)であった。その中から否定助動詞など分‍析対象には望ましくない品詞を除くと,異なり語数(使‍用)は1,115となった。本研究では,書籍に記載されている「心理・生理・病理」の特性をより適切とらえるため,出現回数を58語(出現回数が12回以上)とした。(表2)なお,このことを受け,以下に続く共起ネットワークにおける分析並びに階層的クラスター分析においても,出現回数の最小値を12回に設定している。

表2  頻出した58語と出現回数
抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数
知的障害 114 知的機能 23 教育 15
発達 65 知能指数 22 指導 15
障害 51 運動 21 社会生活 15
困難 49 能力 21 知能検査 15
原因 41 結果 20 日常生活 15
場合 40 染色体 20 意思 14
子ども 38 異常 19 検査 14
言語 32 認知 19 特徴 14
多い 30 一般 18 傾向 13
遅れ 29 生じる 18 多く 13
年齢 29 特性 18 抽象 13
記憶 27 行動 17 関係 12
必要 26 支援 17 生理型 12
25 知能 17 適応行動 12
示す 25 難しい 17 特定 12
程度 24 病理 17 内容 12
理解 24 環境 16 反応 12
学習 23 考える 16 分類 12
状態 23 課題 15 問題 12
生活 23

知的障害について,文部科学省は「知的障害とは,一般に,同年齢の子供と比べて,『認知や言語などにかかわる知的機能』の発達に遅れが認められ,『他人との意思の交換,日常生活や社会生活,安全,仕事,余暇利用などについての適応能力』も不十分であり,特別な支援や配慮が必要な状態とされている。また,その状態は,環境的・社会的条件で変わり得る可能性があると言われている。」4) とあり,知的障害は知的機能と適応能力の両面から定義されている。頻出語を見ると,知的機能のキーワードの「認知」や「言語」といった語が,また適応能力についても「意思」や「日常生活」,「社会生活」などが抽出されている。書籍においては,知的機能と適応能力が概ね取り上げられている状況にあることから,文部科学省の定義づけに添った丁寧な指導を基本とした伝達が大切であると考える。

(2) 共起ネットワークによる分析

共起の程度が強い語について検討するために,頻出語と同じ語を用いて共起ネットワーク分析を行った(図‍1)。分析の結果,図‍1に示した抽出語の共起関係は9つのサブグラフに分けられ,サブグラフごとに話題名をつけた(表3)。その語の前後の文脈を一覧表示するKH CoderのKWICコンコーダンスを参照し,文章中でどんなふうに語が使われていたのか文脈も確認しながら話題名をつけた。

図1 共起ネットワークにおけるサブグラフ分類
表3  共起した抽出語とつけた話題名
話題名 共起した抽出語
知的障害の原因や特性 知的障害,発達,言語,能力 など
知的機能や適応能力 知的機能,日常生活,社会生活 など
学習活動 学習,特性,指導,特性
知能検査 知能検査,知能指数,結果 など
対人関係などの環境 環境,関係
行動の難しさ 行動,難しい
障害や発達の程度 障害,程度
知的障害の原因の特定 原因,特定,生理型,病理
染色体異常 染色体,異常

本研究の目的は関連書籍における知的障害者に関する心理・生理・病理の説明の状況を把握することであることから,共起した抽出語から得られた話題名(【 】で記す)を俯瞰し,その特徴を考察する。

はじめに,知的障害の特徴について記述した視点として【知的機能や適応能力】が挙げられ,その具体的な特性として【学習活動】や【対人関係などの環境】,【行動の難しさ】といった話題で説明されていると読み取れる。

また,知的障害の実態把握に関する視点としては,【知的障害の原因や特性】においてその状態像や影響が説明され,【知能検査】を通して特性の実態把握がなされること,や【障害や発達の程度】が見出されることが記述されていると読み取れる。

知的障害が生じる要因は,病理型や生理型のように【原因の特定】が出来るあるいは出来ないことによって分類されることもあり,その代表例としてダウン症候群のような【染色体異常】が挙げられていると読み取れる。

以上のことから,知的障害の心理・生理・病理における共起関係は,知的障害の特徴と実態把握,生じる要因の共起性や関連性をもとに説明をすることが大切であると考える。

なお,共起ネットワークにおいては,他の語と共起関係がないと見なされた語は頻出語であっても結果の中に現れなくなっており,それに該当する語の数が減少している。

(3) 階層的クラスター分析

抽出された58語の組み合わせの類似度や距離に基づいて,似ている語どうしをグループに分類する階層的クラスター分析(最小出現数12,方法Ward法,距離Jaccard)を行い,デンドログラムを作成した(図2)。その結果,8つのクラスターに分類された。それぞれのクラスターを命名し,共起ネットワークの分析時と同様に,その語の前後の文脈を一覧表示するKH CoderのKWICコンコーダンスを参照し,文章中でどんなふうに語が使われていたのか文脈も確認しながら分析し‍た。

図2 階層的クラスター分析のデンドログラム

①クラスター1 必要な支援 と命名

このクラスターは社会生活,日常生活,知的機能,支援 などから構成される。知的障害者の意思や社会生活,日常生活といった適応機能や知的機能への教育場面における支援や配慮に関するものである。

②クラスター2 染色体異常 と命名

このクラスターは染色体,異常から構成されている。染色体や代謝の異常など,病理的な原因に関するものである。

③クラスター3 原因の分類 と命名

このクラスターは分類,生理型,病理 などから構成される。知的障害の原因の特定にあたって,病理型と生理型への分類に関するものである。

④クラスター4 知能検査 と命名

このクラスターは知能検査,知能指数,結果 などから構成される。知的機能の判断には標準化された知能検査が必要であり,その結果の程度が示すものに関するものである。

⑤クラスター5 特性の表れ と命名

このクラスターは発達,言語,認知,遅れ などから構成される。同年齢の子供に比べ,発達や言語,認知の機能などに遅れがみられることに関するものである。

⑥クラスター6 学習場面での対応 と命名

このクラスターは内容,指導,特性,学習から構成される。内容の理解には指導方法に気を付けなければならず,特性や学習面の配慮に関するものである。

⑦クラスター7 具体的な難しさ と命名

このクラスターは行動,課題,理解 などから構成される。知的障害者の難しさはいろいろな場面で見られ,抽象化や言語理解など,適応の難しさなどより具体的なものに関するものである。

⑧クラスター8 一般的特性

このクラスターは程度,環境,困難 などから構成される。知的障害の程度や適応行動の難しさなど,知的障害にまつわる難しさに関するものである。

階層的クラスター分析と共起ネットワーク分析を見比べてみると,概ね似たような内容になっていた。そのような中,「クラスター7 具体的な難しさ」は共起ネットワークでは見当たらない内容であった。知的障害の特性を捉えつつ,その中でもどのような点において難しさがあるのか,改めて捉えておく必要があると考えられる。

4. おわりに

知的障害児の心理・生理・病理に関する書籍をもとに,現況により添った形で学生が特別支援教育,特に知的障害教育を学ぶことを念頭に,テキストマイニングを行った。

知的障害児の心理・生理・病理におけるシラバスの記載事項について,矢野は「実用的な適応機能に関してはほとんどの大学において記載がない」5) と指摘している。本研究における頻出語では知的障害を網羅するように出現しているようではあったが,身辺自立や職業的責任感といった語は頻出語としては上がっていないこともあり,改めて,その理由について詳細を検討する必要がある。

共起ネットワークによる分析や階層的クラスター分析から,文章中に出現する語と語が共に出現する関係をみたり類似性の高い語どうしをグループ化した。このことから,書籍を通じ知的障害の状態や特性及び心身の発達の段階等についてテキストへの記載の有無にかかわらず,伝達すべき事項やその関連性について知り,理解する流れを見ることができた。一方で,授業においては猪狩らの「授業においても,テキストでも伝えられることのできる限界を知りつつ,実際に学生が経験したことを取り上げたりする」6) ことの大切さも‍認識をしておかなければならないと考える。

分析に使用した教科書やテキストは本文中に表として記したため,引用文献からは割愛した。

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