抄録
戦後73 年が経過し、戦争の記憶の継承が課題となっている。しかし戦争体験は、当事者にとって語り難いものであり、それゆえに語り手となることもまた難しい。秋田市には県内で唯一、戦争体験の語り部の会がある。本稿では、この語り部の会を設立した人物に焦点を当てる。小中学生時代を戦中・戦後に生きた設立者が語る戦争は、生活体験としての記憶であり、その中で学校教育や社会の矛盾について、子ども心に抱いた多くの疑問を語り手に訴えるものであった。この個人の経験が、その後の秋田市語り部の会の設立にも影響していると考えられる。設立者は戦争体験について、何を、誰に、なぜ語るのだろうか。秋田市語り部の会の設立者のオーラル・ヒストリーを通して、会の特徴や目的について理解を深めたい。