2008 年 57 巻 1 号 p. 366-361
初期仏教以来の伝統的な術語である「触」(sparsa)は,十二支縁起の第六支として六入と受の間に位置づけられ,「根・境・識の三者の集合(trikasamnipata)」と定義された.この定義はアビダルマ論書における心所法としての触の定義にも引き継がれるが,唯識派のアビダルマを組織したアサンガは,触の定義に「根の変異の判別」(indriyavikarapariccheda)という新しい要素を加えた.スティラマティはアサンガの定義を引き継ぎつつ,さらにいくつかの改変を加えている.本稿では,スティラマティの触の定義をアサンガ(およびヴァスバンドゥ)の定義と比較することで,唯識派における触の定義の展開を確認しながら,スティラマティによる定義の特徴を明らかにし,その改変の意図を考察する.