印度學佛教學研究
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『金光明経』「序品第一」
――はじまりのはなし――
鈴木 隆泰
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2011 年 59 巻 3 号 p. 1178-1186

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抄録

筆者はこれまで,『金光明経(Suvarna[-pra-]bhasottamasutrendraraja)』の制作意図に関して以下の<仮説>を提示してきた.・大乗仏教徒の生き残り策としての経典:『金光明経』に見られる,従来の仏典では余り一般的ではなかった諸特徴は,仏教に比べてヒンドゥーの勢力がますます強くなるグプタ期以降のインドの社会状況の中で,余所ですでに説かれている様々な教説を集め,仏教の価値や有用性や完備性をアピールすることで,インド宗教界に生き残ってブッダに由来する法を伝えながら自らの修行を続けていこうとした,大乗仏教徒の生き残り策のあらわれである.・一貫した編集意図,方針:『金光明経』の制作意図の一つが上記の「試み」にあるとするならば,多段階に渡る発展を通して『金光明経』制作者の意図は一貫していた.・蒐集の理由,意味:『金光明経』は様々な教義や儀礼の雑多な寄せ集めなどではなく,『金光明経』では様々な教義や儀礼に関する記述・情報を蒐集すること自体に意味があった.本稿では『金光明経』全体の「発端」である第1章「序品(Nidana-parivarta)」に焦点を当て,『金光明経』の持つ諸特徴がすでに「序品」から表れていることの確認と考察を通じて<仮説>の検証を続けた.また,曇無讖訳(Suv_<C1>)・現行梵本(Suv_s)・チベット訳1(Suv_<T1>)に比べ,チベット訳2(Suv_<T2>)・義浄訳(Suv_<C3>)は大幅な増広を受けており,分量が倍増している.本研究は増広箇所の出典の特定と,増広理由についても探った.その結果,「仏教が斜陽となる中,仏教の存続に危機感を抱いた一部の出家者たちは,在家者から経済的支援を得てインド宗教界に踏みとどまり,仏教の伝承と実践という義務を果たすため,『金光明経』を制作した.彼らは『金光明経』の価値や有用性や完備性をアピールするため,適宜『金光明経』を増広発展させていったが,彼らの制作意図は,経典の冒頭に増広以前より配置された「序品第一」に明示されていた.そして「序品第一」の増広に際しては,「『金光明経』の完備性のアピール」のため「経典として,より体裁を整える」ことに主眼が置かれた.その出典・題材は,後続する「如来寿量品第二」の増広の際にも参照した『大雲経』であった」という結論を得たことで,所期の目的を達成した.

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© 2011 日本印度学仏教学会
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