印度學佛教學研究
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直証は聖伝(agama)に勝るか?
―― Madhvaの知識論――
池端 惟人
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2013 年 61 巻 3 号 p. 1114-1118

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抄録

13世紀のVedanta学匠Madhvaは,Sankaraの説いた不二一元論に異を唱え,主宰神Visnuと世界との絶対的な別がすべての認識根拠(pramana)によって知られると主張した.中でも最も重要な根拠とされたのは,主宰神と自分たちとの違いを目の当たりにする経験(anubhava)である.しかし,この経験と,梵我一如を説くUpanisadの諸聖句とには明らかな矛盾がある.Madhvaはこの問題を解決するため,経験をsaksinの知と言い換え,それに絶大な力を与えた.すなわち,saksinは自己照明性をもち,自分自身や快苦など,他の根拠では証明不可能だが,経験上その存在を否定できないものはすべてそれの対象であるとした.あらゆる経験はこの絶対なる認識者が知覚した疑いえない事実である.したがって他の認識根拠がそれが正しい根拠である(pramanya)との判断も彼なしにはあり得ない.したがって聖伝の正当性すらも経験によって支えられるのだから,経験と抵触する聖句には別様の解釈を施さねばならない.MadhvaのVedanta学匠としての特異さは彼のこの異常なまでの現実志向があったのである.

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© 2013 日本印度学仏教学会
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