印度學佛教學研究
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Āptamīmāṃsā第59偈をめぐる諸問題
志賀 浄邦
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2017 年 65 巻 3 号 p. 1122-1129

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抄録

ジャイナ教徒サマンタバドラ(6世紀頃)によるĀptamīmāṃsā(以下ĀM)は,他学派(特に仏教徒)がジャイナ教徒の見解を紹介し批判する際に,頻繁に引用される作品である.仏教論書の他,他学派(例えばニヤーヤ学派)やジャイナ教徒自身による引用状況も考慮に入れると,第59偈が最もよく引用されていることがわかる.同偈は,ジャイナ教徒に特有の見解である多面的実在論(anekāntavāda)とその根拠を端的に示す内容となっている.

仏教徒がĀM 59を引用する場合,多くの論書では「ジャイナ教徒」(digambara)の見解として引用されているが,例えばジターリのJātinirākr̥tiでは「ジャイナ教徒とミーマーンサー学派」が一まとめにされ,両派の説が混在する中でĀM 59の引用がなされている.またシャーンタラクシタ・カマラシーラはĀM 59自体を引用することはないものの,それとほぼ内容のŚlokavārttika(以下ŚV)(Vanavāda)21–22を「クマーリラ説」として引用している.カルナカゴーミン他がĀMの一連の偈を「ジャイナ教説」として紹介する際にŚV(Vanavāda)23を介在させているのは,ĀM 59の構造をより明確に提示し,その内容理解を補完するためであったと考えられる.

ĀMとŚVに見られる類似の偈を比較した結果,クマーリラがĀMの記述を参照しアレンジを加え,当該の偈を著した可能性が高いことが判明した.少なくともジャイナ教徒ヴァーディラージャスーリの記述はこの可能性を支持する.サマンタバドラとクマーリラの前後関係は明らかではないものの,少なくとも両者は普遍と特殊に関する理論に関して共通した見解を保持していたといえよう.また仏教論書の記述に従えば,ジャイナ教徒とミーマーンサー学派によって主張された存在論(特に普遍と特殊の関係)はサーンキヤ学派のそれと類似の構造をもっていることがわかる.

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© 2017 日本印度学仏教学会
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