印度學佛教學研究
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律文献中の砂糖について
井上 綾瀬
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2017 年 65 巻 3 号 p. 1179-1184

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抄録

漢訳律文献では,砂糖を表す際に「石蜜」という翻訳がしばしば使われる.しかし,紀元前後のインドには,サトウキビの絞汁を1/4に煮詰めた糖液(phāṇita/phāṇita),含蜜糖(黒糖,guḍa/gauḍa/guḷa),粗糖の結晶が浮いた廃糖蜜(khaṇḍa/khaṇḍa),廃糖蜜(matsyaṇḍikā/*macchaṇḍikā),薄い色の粗糖(śarkarā/sakkharā,さらに薄い色vimala/vimala)などが存在し,「砂糖」は複数存在した.サンスクリット語やパーリ語で残る律文献には,phāṇita,guḍa,śarkarā,vimalaが砂糖として示され,仏教教団にも複数の砂糖が知られていた確認ができる.しかし,教団内では砂糖は全て「薬」として使用された為,厳密な砂糖の種類を言及する必要はそもそもなかった.そのため,漢訳律文献において複数の砂糖をひとつの「石蜜」という単語に訳しても「砂糖=薬」の原則故に問題が無かった.そのため,漢訳律文献中の「石蜜」という訳語が示す砂糖は複数ある.漢訳律文献中の「石蜜」が,どの砂糖にあたるかは文脈や規則の内容から総合的に判断しなければならない.

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© 2017 日本印度学仏教学会
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