印度學佛教學研究
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パーリ三蔵コム文字写本の起源に関する問題――タイとカンボジアで発見された貝葉写本を中心にして――
スチャーダー シーセットタワォラクン
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2018 年 66 巻 3 号 p. 1038-1044

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抄録

シャム王国とコム文字の起源であるクメール王国では,パーリ三蔵の貝葉写本が何世紀にも渡って,コム文字で書写されてきた.しかし,現在のところ,シャムとクメールの,コム文字によるパーリ三蔵の貝葉写本が,同一の起源を有するものか否かについては未だ不明である.

印刷技術の向上に伴い,パーリ三蔵の刊本が諸地域の写本伝承に基づいて作成された.クメール版の序文では,このクメール版のテクストが,カンボジアで発見されたコム文字の貝葉写本を元に,ヨーロッパ版,ビルマ版及びモン族版を参照しながら,編集されたことが言及されている.しかし,シャム版が主な資料として使用されていないのは,カンボジアの貝葉写本と同じ系統に属するものと見なされたからである.この主張は,カンボジアにおけるパーリ三蔵のコム写本伝承が,タイから継承されたと考える研究者の見解に呼応するが,この問題に関して異なる見解を持つ研究者もいる.

本稿では,パーリ三蔵のコム写本伝承の歴史研究の必要性を論じ,更に東南アジア,特にシャム王国とクメール王国におけるパーリ三蔵のコム写本伝承史を論ずる.

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© 2018 日本印度学仏教学会
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