2018 年 66 巻 3 号 p. 1032-1037
パーリ三蔵は,様々な国・地域で出版されている.それらの内で,主要なのは以下の四つである:ローマ字によるPTS版,ビルマ文字によるChaṭṭhasaṅgīti版,シンハラ文字によるBuddhajayanti版,そしてタイ文字によるタイ王室版.その中でも,学界に標準版としてもっともよく知られているのは,PTS版である.ところが,パーリ語の参考文献や利用できる貝葉写本などの数がまだ限られていた時代に,PTS版の多数のテキストが編集されたので,パーリ三蔵を再編集し,その新校訂版を作成すべきという声も高まりつつある.現在,Dhammachai Tipitaka Project (DTP)がシンハラ文字,ビルマ文字,コム文字,タム文字,そしてモン文字による,五つの貝葉写本伝承を主な資料にして,パーリ三蔵の新校訂版の作成作業に取り組んでいる.
Subhasuttaは,Dīghanikāyaの一部としてDTPによって編集されている.SubhasuttaとはDīghanikāyaの第十経であり,仏陀が入滅して間もない場面を語るもので,アーナンダがスバというバラモンに戒定慧という三学について説法するという経である.Subhasuttaを含むDīghanikāyaを編集するため,82の貝葉写本から21の代表写本が厳選され,編集作業の主な資料とされた.それらの代表写本の比較研究をした結果,Subhasuttaのテキストは非常に正確に伝承されてきたことが分かる.諸写本の読みからは,異読がテキスト全体の約6%しか見つからなかった.当論文では,それらの異読の性質を言及しながら,その実例を取り上げていく.