印度學佛教學研究
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ディグナーガにおける分位(avasthā)――『取因仮設論』の背景についての覚書――
岡崎 康浩
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2020 年 68 巻 3 号 p. 1220-1226

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抄録

ディグナーガは,その著『取因仮設論』において,取因仮設を総衆,相続,分位の3種に分類している.本論の目的はその分類の背景を探ることだが,この3種の中で特に分位に着目した.総衆,相続については以前取り上げたプドガラ論とも関係が深く,また,仏教の基本的教説(無我論,無常論)とも明確な関わりを想定できるが,分位は説明的概念であり,そこにこそ彼の分類の特徴を見いだすことができると考えたからである.『取因仮設論』では,分位は属性と同等に扱われ彼に分類の中でも重要な位置を占めている.こうした分位仮設の記述が彼以前に見られるかを探ると,『瑜伽師地論』の摂事分中本母事序弁摂に見られる仮有の6分類にある分位仮有の記述で生・住・異・滅の四相がディグナーガの記述でも重なっていた.ただ,『瑜伽論』では四相を含めた心不相応行すべてが分位仮有に属するに対し『仮設論』では心不相応行には言及していない,また『仮設論』ではそれに含まれない有見,有対を分位として言及しているといった違いが見られた.このうち,『仮設論』が言及する有見,有対については,『瑜伽論』の摂決択分における四大種と触の関係を分位で説明している記述との関連を指摘した.こうした調査から,ディグナーガの分位概念が『瑜伽論』のアビダルマ的要素と関連を持つこと,彼の概念がアビダルマ的範疇を超えてより言語活動を説明するのに適したものとなっていることを論じた.

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© 2020 日本印度学仏教学会
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