2022 年 70 巻 3 号 p. 1215-1219
仏陀跋陀羅訳『大方等如来蔵経』は,成仏の可能性または素質を意味する上で「仏性」という漢訳語を使用する初期漢訳仏教経論の一つである.しかし,同経の不空訳とチベット訳には,この訳語は見当たらない.同じような意味で「仏性」と訳した曇無讖訳『大般涅槃経』もこの漢訳語を使用する初期漢訳経論の一つであるが,その現存梵本に明確に対応する原語を見出すのは難しいことである.梵本と漢訳との相違点が明確である部分は曇無讖が漢語にまだ馴染んでいなかった時期に訳出されたものである.この「仏性」という訳語とその中国風な説明は地論宗を含む後世の中国仏教および東アジア仏教に最も重要な影響を与えた.