2023 年 71 巻 3 号 p. 1116-1121
本論において,筆者はまず不空(705-774)訳『大方等如来蔵経』を仏陀跋陀羅(358-429)訳『大方広如来蔵経』と比べる.その結果,仏陀跋陀羅訳によく見られる「仏性」という訳語が,不空訳に見当たらないことが分かる.なお,不空に使用される「胎蔵」という訳語は,仏陀跋陀羅訳にもチベット訳にも見当たらない.これより見ると,不空がgarbhaを「胎蔵」と漢訳した可能性を指摘できる.
『如来蔵経』だけでなく,筆者は更に『金剛頂経』などの不空訳とされるほかの諸経論に見える「胎蔵」を確認することにより,この漢訳語の根源を探ってみたい.『金剛頂経』の梵本と不空訳との対照を通して,後者に見られる「虚空界胎蔵」という訳語が複数のサンスクリット語単語に対応することが明らかになる.このため,よく「蔵」と訳されるgarbhaが,不空訳の場合になると,しばしば「胎蔵」と翻訳される,という結論に至る.