2023 年 71 巻 3 号 p. 1122-1127
本稿では「捨生取義」(生を捨て義を取る)について大乗仏教の倫理的観点から述べる.
「捨生取義」の倫理的命題は先秦時代の儒教にさかのぼる.漢字の「義」という字は,主に公正または正義を意味するが,仏教ではその概念に独自の解釈がある.仏教の経典において,「捨生取義」は「捨身護法」(身を捨てて法を護る)の考えに最も近い.『勝鬘経』や『央掘魔羅経』など,大乗仏教の方等経では,自分の命を犠牲にして「正法」を守ることを強く唱導している.
「捨身護法」は大乗仏教で高く評価されてはいるものの,そのような行為はその複雑性から必要な道義的責任とは見なされていない.仏教では世俗の道徳規範は「世俗常数」以上のものではないと信じられている.よって,世俗の倫理的規範や義務を忠実に実践することと比較して,仏教では道徳的行為が「涅槃」に通じる正しい道へと導くものであるかに重点が置かれている.それゆえ,真の「正法」と「捨生取義」の間で,大乗仏教の倫理観では前者により大きな価値を置き,それを後者の評価基準としている.