アジア太平洋地域で日米両国は、各々、個別的FTAの情報通信規定の各国との締結を進め、各々の国内の規制ルールの国際標準化を目指す「法的競争」の状況にある。先行研究では、競争的な個別的FTA の拡大はルール多様化につながり、それが「スパゲッティボール現象」を生じさせ、ルールの広域的共通化の阻害要因となると論じられてきた。FTA 情報通信交渉の場合も、これまでの日米による個別的FTA の「法的競争」は、確かに、ルールの多様化を生じさせている。しかしながら、「スパゲッティボール現象」は生じておらず、広域的なルール共通化も阻害されていない。これは、情報通信規定では、共通化のメリットがあるルールが十分存在し、また、日米に提案ルールを持つ国との間では対立的なルールの提案を差し控え合うインセンティブがあることが要因と見られる。したがって、日本は、競争的な個別的FTA 拡大の追求を止める必要はない。日本のこれまでのルール提案は特定のルールに限定されているので、むしろ、より広い範囲での積極的なルール提案について検討していく必要がある。