2016 年 15 巻 1 号 p. 58-65
近年心身共に病んでいる患者が増加して,この潮流は歯科医療機関の受診患者でも同様である.本症例は不定愁訴が多く,様々な医療機関で治療が続けられた口腔慢性痛症例で,考察を加えて報告する.
症例は62歳の女性で,身長152cm,体重42kgであった.主訴は下顎右側臼歯部の耐え難い痛み.現病歴は,数年前に他歯科医院で同部位の感染根管治療が施行された.既往歴は全身疾患や精神疾患などで,多くの医療施設に通院していた.現在も施設で多数の治療と,最大20種類の投薬がなされていた.
歯科診断では,下顎右側第2大臼歯の感染根管による,慢性根尖性歯周炎であった.治療は再歯内療法と歯冠修復治療を行い,症状は寛解した.一方で,多くの不定愁訴を有することでサルトジェネシスを応用したPEGを活用した.人生の指向性(SOC)を重視した全人的評価と資源の抽出を行い,身体的,心理的,社会的および実存的問題が浮き彫りになった.また,働くひとのこころとからだの健康調査票(CHCW)を用いた健康度の標準化得点が41点で,各ディメンションともに平均して低い結果となった.
これらの問題を包括的に治療するために,資源の中から理解能力,管理能力および意義深さなどの問題点に焦点を絞り,全人的医療を行った.その結果,症状は軽快した.
その後は心理的荷重が加わることで,口腔症状を訴えるため,サルトジェネシスに基づいた治療で対応することにより健康生活へ復帰した.