2020 年 18 巻 1 号 p. 41-48
【目的】当院では全人的医療の文脈に従い,構造的な問診(インテーク・インタビュー)を行っている.そのプロセスで慢性疼痛(線維筋痛症:FMS)患者は,心理・社会面および実存面の問題に触れると,涙を流すことも多く観られる.FMSの実存性を問診票(痛みと疲労健康調査票V11)から評価したい.
【方法】FMS 58名の記入した問診票の,実存面の質問に対する回答を評価した.評価にあたり,局所痛(三叉神経痛や糖尿病性神経障害など)30名および,職業を持った健常者32名の回答と比較検討した.質問は4項目.1.あなたの人生で,本当に大切なものは何ですか.2.あなたに喜びや幸福感をもたらすものは何ですか.3.あなたは,なぜ健康になりたいのですか.4.あなたは,健康になったら何をしたいですか.質問は米国における「患者中心医療」(patient centered medicine)を参照して作成した.
【結果】FMS患者では,1.の質問にて最も多かった回答は「家族」次いで「健康」であった.2.の質問では「家族」次いで「人との関わり」であった.3.の質問では「自分のため」に該当する回答は全体の50%であった.「誰かのため」に該当する回答は全体の47%であった.(無回答3%).局所痛の患者は「自分のため」73%,「誰かのため」27%であった.4.の項目では「日常できること」に該当する項目は59%であり,旅行などの「非日常」は19%であった.局所痛の患者は「日常」30%,「非日常」40%であった.
【考察】多くのFMS患者は,日々の辛い全身疼痛の中で,自己洞察を深めていると考えられた.さらに,誰かのために生きたいという,実存性にたどり着くのではないかと考えられた.FMS患者は「普通の生活」がどれだけ,かけがえのないことであるかを実感していると考えられた.また,潜在的に自らが機能的病態(ホメオスタシスの歪みから発症)であることに気がついており,普通の生活(健康的な生活)に戻れるという希望を持っているとも考えられた.治療者はこの希望に寄り添うことが,大切であると考える.