抄録
本稿は,雲により生じる光学的な効果,例えば,雲の分布を考慮した天空光による照明や雲が落とす影などを,精度よく表現するための新しい手法を提案するものである.提案手法は,多階層の受光直方体による照度計算法を基本とし,雲自身の領域と雲によるシャドウボリュウムを効率良く求めることにより,雲を任意に配置した天空の輝度分布を計算できる.従来の天空照度を考慮した屋外景観表示手法は,完全晴天空と完全曇天空の天空輝度分布のみ表現できる.すなわち,雲の分布を無視している.更に,雲は,散乱媒質(participating media)の密度分布として定義されているので,シーン中に多数の雲を配置し,なおかつ,それらが他の物体に影を落としている画像を生成するためには,ばくだいな計算時間を必要とする.提案手法は,これらの問題を,ポリゴンからなる“雲の表面”を導入し,それを太陽光線の入射方向を投影方向としてデプスバッファに描画して得られるデプス情報を利用することにより解決している.提案手法により,様々な雲の分布における日の出から日没までの景観をリアルに表示できる.提案手法が,雲を含む景観画像生成について,計算時間と画質の間の非常によいtrade-offを実現していることを実装結果により示す.