抄録
術前検討や手術計画において,血管の構造解析や病変部の形状把握のために,脳領域の3次元血管可視化は必要不可欠である.血管を観察するための直接的な手法は,MRA(Magnetic Resonance Angiography)画像に対して,MIP(Maximum Intensity Projection)と呼ばれる血管投影像が用いられる.このとき,MIP画像では,頭皮などの脳以外の組織によって脳内の血管が隠されてしまうため,臨床現場ではこれらの組織の削除を手動で行っており,作業従事者の負担が大きいことが問題である.この作業負担を軽減するため,脳領域を自動的に抽出して3次元血管の可視化を行う手法が提案されているが,従来手法では,使用されるパラメータの数が多く,その決定に学習型アルゴリズムを用いていることから,多くの処理時間を要するため,臨床現場での適用は困難であると考えられる.本研究では従来手法と同じく,MRAデータから脳領域を自動抽出をすることにより,頭皮などの組織を自動的に削除して臨床用MIP画像を自動生成する手法を提案する.MRA画像の各スライス画像における頭部内部組織は,脳領域に入り込んでいる脳血管以外は,内側から脳領域,硬膜,脳脊髄液,頭皮といった構造になっており,それらは互いに密接している.更に,スライス方向でみると頭部領域の概形は楕円球のような形をしており,隣接スライスでの形状は似通っているという構造的特徴がある.提案手法では,これらの特徴を利用して,最小値投影法(MinIP:Minimum Intensity Projection)を用いるだけで,脳と密接する組織の境界領域を拡大するにより脳領域との分離を行う.最後に,領域拡張法を用いて脳領域を自動抽出することで,脳以外の領域を容易かつ高速に削除する.提案手法を実データに適用した結果,技師による手動の作業による結果と比べても臨床的に十分なレベルで不要組織が削除されているとの評価が得られた.更に,提案手法は手動の作業と比べて約半分の時間で処理を行うことができ,パラメータの数も少ないことからユーザ負担の少ない処理であることが明らかとなった.