医療と社会
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委託研究論文
アメリカの製薬産業
吉森 賢
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2005 年 15 巻 2 号 p. 2_1-2_22

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抄録

1.世界最大の医薬品市場,今後も予測される医薬品需要,新薬研究開発の促進施策および迅速な承認手続き,その他国家的戦略の追求に基づく効率的な政策と制度改革によりアメリカは世界の医薬品研究開発の中心地になりつつある。
2.医薬品需要はメディケアの大改正により処方医薬品の給付が可能となり,今後も大きな成長が予測される。
3.マネジドケアを中心とする民間医療保険の発達は薬価を抑制する働きがあるが,医薬品消費を容易にするため,総じて医薬品支出は今後も増加すると予測される。
4.医薬品企業の集中度は他産業に比較し低いので,最近の大型合併にも関わらず,今後も吸収合併は継続すると予測される。
5.研究開発費は対象疾病の複雑化,研究開発の長期化,リスク拡大などを背景として今後も増加を続けると予測される。
6.製薬企業の売上高に占めるブロックバスター医薬品の比重は平均70%と高く,今後もこれを目的とする研究開発は継続されよう。
7.しかしこれのみでは経営リスクが大きいので,医薬品各社は戦略提携,ライセンス契約,共同研究など他社との連携も積極的に進められよう。
8.NIHを中心とする政治,行政,製薬産業間の研究開発協力関係は緊密,有効であり,これら間の情報共有の密度も高い。
9.FDAを中心とする規制機関も新薬開発を促進するユーザーフィー法,ハッチ・ワックスマン法などさまざまの施策を迅速に策定,実施しつつあり,製薬企業の研究開発努力を側面から支援する。
10.しかし完全な制度はあり得ない。バイオックスの自主回収とこれをめぐる訴訟は,上述の制度改革とアメリカの医薬品企業の経営行動の負の側面に他ならない。安全性よりも企業成果を重視するとされる批判は市場論理に基づく医療制度に対する批判でもある。製薬企業の収益と公共利益の両立が今後の医薬品産業に求められる。

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© 2005 公益財団法人 医療科学研究所
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