医療と社会
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研究ノート
介護保険制度の帰着分析
酒井 正風神 佐知子
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キーワード: 介護保険, 事業主負担, 帰着
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2006 年 16 巻 3 号 p. 285-301

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抄録

 日本で社会保険料の事業主負担の帰着に関する実証分析が少ない理由の一つとして,適切な自然実験となるような制度変更が無かったことが挙げられる。2000年に導入された介護保険制度では40歳以上の労働者についてのみ企業に保険料負担が課されるので,40歳以上と40歳未満の労働者の制度導入前後の賃金変化を比較することで,事業主負担が賃金低下という形で労働者に帰着していたかどうか確かめることができる。「賃金構造基本統計調査」の公刊データを用いた推計より,様々な要因をコントロールしたうえでも,40歳以上の男性労働者では,2000年以降,相対的な賃金低下が大きかったことが確かめられた。この賃金低下は大企業よりも中小企業において顕著に観察された。推計は誤差項の系列相関に配慮し,Bertrand et al.(2004)の提案する方法に基づいて行ったので,従来のDD推定に見られたような過大推定の危険はない。
 但し,更に結果の頑健性について検討を行ったところ,40歳という年齢境界は必ずしも重要なわけではない可能性も示され,中高年層に見られた賃金低下が本当に新たに課された事業主負担によるものであったかどうかについては,本分析の枠組みからははっきりした結論が得られなかった。

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© 2006 公益財団法人 医療科学研究所
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