医療と社会
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特集論文
シンガポールの医療政策
―国家戦略の一環としての医療―
中田 健夫
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2008 年 18 巻 1 号 p. 121-141

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抄録

 シンガポールは1965年の独立以来,積極的な外資の導入により短期間に驚異的な経済発展を遂げ,周辺東南アジア諸国と際立った違いを見せる欧米型社会を築くに至った。その医療経済・政策面においても特色があり,世界の多くの国で模範的な医療制度として紹介されてきた。シンガポール政府は国民に対して医療に関する自助努力を求めているが,その象徴が国民の給与より一定割合を強制的に貯金するCentral Provident Fund(中央積立基金,CPF)という制度である。CPF内のMedisaveと呼ばれる医療口座は医療費支払いと医療保険料支払いに特化したもので,毎月給与と雇用者拠出金の一定割合が貯金される。その他にシンガポール医療を特徴づける事情には,公的保険分野及び民間病院経営に外資の参加を容認していることがある。以上の政策は日本においては馴染みのないものであるが,今後の日本の医療政策に影響を与え得るものと思われる。更にシンガポールは国家生き残りの手段として,医療を国家戦略の一環に据えている。その為に官民挙げて外国人患者の獲得に邁進している。政策立案から実行までに要する時間が短期間であることが知られているが,これはシンガポールの政治体制の特殊事情によるものである。今回,筆者のシンガポールにおける4年間の臨床医としての勤務経験と各種公式統計,及び若干の文献的考察を交えながら,日本とは大きく異なるシンガポールの医療政策を紹介するものである。

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© 2008 公益財団法人 医療科学研究所
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