医療と社会
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特集論文
インドの保健制度
伊藤 成朗
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2008 年 18 巻 1 号 p. 5-48

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抄録

 インドでは,貧困家計が質の高い医療サービスを利用しづらいのが大きな保健問題である。広大で多様な国土によって農村・遠隔地に公立医療施設が未だに不足しているためである。公立医療施設があっても,医師や看護師の欠員や無断欠勤でサービスをいつ受けられるか予測できなかったり,無料薬の在庫切れ,長い待ち時間,接見態度,賄賂などの問題もある。貧困家計は医療保険を持たないので,多大な出費を要する私立病院は最終手段である。このため,貧困家計を中心に医学知識を持たない無免許医を利用する傾向がある。データによる検証でも,貧困層の利用は質が低いとされる公立病院が主で,利用日数も富裕層より少ない。公的医療サービスの質が低いのは,職員に適切な職務環境とインセンティブを政府が供与できていないためである。よって,施設を拡充しつつ,成果を人事評価に反映させる必要がある。最低限の医療の質を確保する人事評価制度の運営は容易であるが,同時に病院経営の独立性を確保し,市町村自治体に監視を委ねる必要がある。こうした改革は州政府がすべての権限を持つ現体制では不可能であり,分権化が要請される。分権化は中央政府が数十年間標榜しているが,既得権益に反するために大多数の州で停滞している。公立だけでなく,私立病院を利用しやすくするために,マイクロインシュアランスなどを通じた医療保険も整備すべきである。民選された州議会のイニシアティブを仰ぎつつ,革新的な人事評価制度の試行,分権化の促進,マイクロインシュアランスの試行などは,外国ドナーが政策対話を通じて働きかけてよいであろう。

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© 2008 公益財団法人 医療科学研究所
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