オーストラリアの医療制度は英連邦タイプの一般財源による公的皆保障制度を保ちつつ,民間の医療機関と医療保険が大きなプレゼンスを持ち併存する構造になっており(「官民二本立て構造」),支払い方式は公的給付と消費者の負担の併用(日本のいわゆる混合診療)が前提となっている点が大きな特徴である。
国民全員への安価な一定水準の医療が公的制度において担保されている一方,中~高所得層はさらなる支出でより快適な医療サービスを購入できるシステムになっており,この「二本立て構造」が資源配分の改善を通して経済効率性を高めている。一方で,充実したセーフティーネットがあり,費用負担では税方式による累進性があり,高度医療や救命医療は無料の公立病院の管轄である。こうして効率性と同時に医療の公平性と公的制度の健全性が確保されている。その他,DRGや費用対効果分析の導入,効率的な老人介護制度などの先進事例もあり,全般として質,効率性,公平性,持続可能性のバランスの取れた制度であり国際的評価も高い。
このようなオーストラリアの制度は,近年日本で本格化している医療格差や混合診療解禁を巡る議論に大きな示唆を与えるものと考えられるが,我が国ではそのような視点に限らずオーストラリアの制度自体の紹介がほとんどなされていない。本稿では官民二本立て構造と混合診療に関する視点を盛り込みつつ,オーストラリアの医療保障制度を概観する。