医療と社会
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研究ノート
在宅療養患者とその家族を対象とした音楽療法介入の試み
患者のQOLの向上に焦点を当てて
涌水 理恵
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2008 年 18 巻 3 号 p. 361-376

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抄録

【目的】緩和ケアのひとつとして近年注目を集めている音楽療法を,ADL依存状態にある在宅療養患者とその家族に試み,両者が音楽を共有することの意義を,患者の主観的あるいは客観的QOLの観点から考察することを目的とする。
【方法】G県内の在宅患者とその家族7組を対象に音楽療法介入および半構造化インタビューを行い,ナラティブ・アプローチを用いて質的分析を行った。
【結果】音楽療法介入による患者の変化として,曲を聴くことで昔を思い出して“楽しんだり,懐かしんだり”したエピソードが語られ,そんなふうに“楽しんだり,懐かしんだり”している時間には,慢性的にある痛み・しびれなどの身体症状や不安などの心理症状が和らいだことが語られた一方で,“自分へのもどかしさ”が語られる場面もみられた。また多くの患者から,“家族に対する感謝の意”を表出する語りが顕在化した。一方,家族の語りとして,患者の様子を見ながら曲に“参加したり”,場合によっては“見守ったり”したエピソードが全家族から語られた。そのほか今回の介入を契機に,患者のさらなるQOL向上にむけて自発的に動いた家族の具体的な行動変容も語られた。
【考察】患者から“自分へのもどかしさ”が語られたのは,日常的に感じる自尊感情の低下が,介入によって心理状態が和らぐことで,対象から吐露されやすくなり,インタビューにより顕在化した結果と考えられた。音楽の共有を通して,患者と家族の時間的・精神的交流が促進されており,双方の「一緒に過ごす時間の増加」「会話量の増加」に集約されていた。結果として,『音源そのものによる癒し』と『家族との交流による癒し』が『患者の心理的安寧』に寄与し,QOL向上に繋がった可能性が考えられ,緩和ケアの一方策としての音楽療法の有効性が示唆された。

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© 2008 公益財団法人 医療科学研究所
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