2011 年 21 巻 3 号 p. 249-264
近年,がん予防に対する社会的関心の高まりをうけて,各自治体のがん検診に対する取り組みが注目を集めている。しかし,がん対策基本法で謳われた意欲的な受診率目標とは裏腹に,受診者数に上限を設ける自治体もあるなど,自治体による受診機会の提供には,大きな地域差が存在している。そこで本稿では,検診の普及に有効だとされる個別検診が受診率を上昇させるのか検証するとともに,個別検診の実施と自治体財政の関連について3ヵ年の市区町村パネルデータを用いて分析した。その結果,第1に,胃がん,大腸がん,肺がんの検診では,個別検診の普及が受診率を向上させるという結果が得られた。第2に,財政力指数が低下した自治体ほど個別検診受診者の割合が減少しており,自治体の財政状況が個別検診の普及に影響を与えていることが示唆された。財政的に逼迫した自治体では追加的な財政負担の懸念から,受診率を上昇させるインセンティブが希薄になっている可能性があるだろう。