医療と社会
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特集 患者自己負担の在り方をめぐる諸問題
公的医療保険制度における自己負担をめぐる諸問題
遠藤 久夫
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2021 年 31 巻 1 号 p. 11-30

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抄録

患者に医療費の自己負担を課すことの主な目的は以下の三つである。

1)医療資源を過剰に利用するモラル・ハザードの回避

2)医療費の財源を公費や保険料から患者負担にシフトさせるコスト・シフティング

3)過度の大病院志向などの不適切な患者の受療行動の適正化

わが国の公的医療保険制度では,「法定自己負担率」と「高額療養費制度」により患者の医療費自己負担額をコントロールしている。高額療養費制度とは,患者の自己負担の上限を定めたもので,この制度により患者は高いコストの医療を受けることが可能になり,医療費の支払いにおけるセーフティネットだと言える。

医療費は増加し続けているが,医療保険財政は悪化しているため,患者の法定自己負担率は引き上げられてきている。その結果,自己負担額が上限額に達するケースが増え,高額療養費が増加している。医療費に占める高額療養費の割合は2002年の3.2%から2017年には6.4%に上昇している。

高額療養費増が増加しているため,公的自己負担率は上昇傾向にあるにもかかわらず,実効自己負担率は低下している。具体的には,2003年の実効自己負担率は74歳以下が22.7%,75歳以上が8.8%であったものが,2017年にはそれぞれ,19.7%,8.0%に低下している。

実効自己負担率を外来と入院で比較すると,2017年では外来18.3%,入院6.6%と入院の実効自己負担率が非常に小さい。これは,入院は医療費の額が大きいため高額療養費の支出が大きいためである。

75歳以上の患者の法定自己負担は原則1割である。これに対して,高齢者は,医療費に対する保険料や自己負担の割合が,若い世代と比較して低すぎるので,高齢者の自己負担を引き上げるべきという意見が台頭してきた。それに対して,高齢者は所得が少なく医療費が多いので,所得に占める医療費の自己負担の割合が若い世代より高い。したがって,高齢者の医療へのアクセスを担保するためには1割のままでよいという意見が対立した。議論はなかなか決着がつかなかったが,2020年になって,「年収約200万円以上の75歳以上の高齢者は2割負担」にすることが政治決着した。

今後も,患者の医療費の自己負担を増加させようという圧力が高まっていくことは間違いない。その中で,高齢者の法定自己負担率のさらなる引き上げと高額療養費制度の見直しがポイントになるだろう。

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