医療と社会
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31 巻, 1 号
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巻頭言
特集 患者自己負担の在り方をめぐる諸問題
  • 中村 洋
    2021 年 31 巻 1 号 p. 5-9
    発行日: 2021/07/08
    公開日: 2021/07/13
    ジャーナル フリー
  • 遠藤 久夫
    2021 年 31 巻 1 号 p. 11-30
    発行日: 2021/07/08
    公開日: 2021/07/13
    ジャーナル フリー

    患者に医療費の自己負担を課すことの主な目的は以下の三つである。

    1)医療資源を過剰に利用するモラル・ハザードの回避

    2)医療費の財源を公費や保険料から患者負担にシフトさせるコスト・シフティング

    3)過度の大病院志向などの不適切な患者の受療行動の適正化

    わが国の公的医療保険制度では,「法定自己負担率」と「高額療養費制度」により患者の医療費自己負担額をコントロールしている。高額療養費制度とは,患者の自己負担の上限を定めたもので,この制度により患者は高いコストの医療を受けることが可能になり,医療費の支払いにおけるセーフティネットだと言える。

    医療費は増加し続けているが,医療保険財政は悪化しているため,患者の法定自己負担率は引き上げられてきている。その結果,自己負担額が上限額に達するケースが増え,高額療養費が増加している。医療費に占める高額療養費の割合は2002年の3.2%から2017年には6.4%に上昇している。

    高額療養費増が増加しているため,公的自己負担率は上昇傾向にあるにもかかわらず,実効自己負担率は低下している。具体的には,2003年の実効自己負担率は74歳以下が22.7%,75歳以上が8.8%であったものが,2017年にはそれぞれ,19.7%,8.0%に低下している。

    実効自己負担率を外来と入院で比較すると,2017年では外来18.3%,入院6.6%と入院の実効自己負担率が非常に小さい。これは,入院は医療費の額が大きいため高額療養費の支出が大きいためである。

    75歳以上の患者の法定自己負担は原則1割である。これに対して,高齢者は,医療費に対する保険料や自己負担の割合が,若い世代と比較して低すぎるので,高齢者の自己負担を引き上げるべきという意見が台頭してきた。それに対して,高齢者は所得が少なく医療費が多いので,所得に占める医療費の自己負担の割合が若い世代より高い。したがって,高齢者の医療へのアクセスを担保するためには1割のままでよいという意見が対立した。議論はなかなか決着がつかなかったが,2020年になって,「年収約200万円以上の75歳以上の高齢者は2割負担」にすることが政治決着した。

    今後も,患者の医療費の自己負担を増加させようという圧力が高まっていくことは間違いない。その中で,高齢者の法定自己負担率のさらなる引き上げと高額療養費制度の見直しがポイントになるだろう。

  • コンジョイント分析による部分効用値推定に基づく分析
    菅原 琢磨
    2021 年 31 巻 1 号 p. 31-44
    発行日: 2021/07/08
    公開日: 2021/07/13
    ジャーナル フリー

    大病院への軽症外来受診者の適正化,かかりつけ医との機能分担を主たる目的とした外来定額自己負担制度は,導入以来,徐々にその適用対象範囲を広げてきた。制度導入の趣旨からすれば,設定される定額自己負担額は,安易な大病院への受診インセンティブを抑制するに足る水準でなくてはならないが,一方で,重症時など必要な受診を大きく妨げるものであってはならない。設定された定額負担額に対する受け止め方は個々人で異なるはずであり,医療機関受診の決定に際して考慮される諸々の他の条件との比較の中で,定額負担がどの程度の重要性を持つのか,またその相対的重要性に対し,いかなる要因,属性が影響を及ぼすかについて,ウェブ調査から回収したデータによりコンジョイント分析を活用した検討を行った。

    結果として受診決定時の定額自己負担の重要性については,①男女差がある,②高齢者の相対的重要性は低い,③世帯年収の低い層で相対的重要性が高まること等が示唆された。

  • 大久保 豪
    2021 年 31 巻 1 号 p. 45-59
    発行日: 2021/07/08
    公開日: 2021/07/13
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,国際比較によって日本の患者自己負担を相対化させ,その特徴を明らかにすることである。比較の対象国として,日本と同様に社会保険方式を採っているドイツ及びフランス,税方式を採っている代表的な国であるイギリスの3ヵ国を選択した。本稿ではまず各国の医療制度(医療提供制度及び医療財政制度)の仕組みと特徴を記述し,その後に患者自己負担について,4ヵ国共通の視点(a.年齢,b.所得,c.疾患・障害,d.高額医療費,e.医薬品,f.入院・外来,g.受診経路)で整理した。4ヵ国を通観した結果,特徴的だったのは第1に患者自己負担の医療政策における重要性の相違である。イギリスは原則無料で,ドイツも患者自己負担に重きを置いてはいない。一方で,日本とフランスは患者自己負担の割合が大きく,その仕組みも複雑である。第2は,高齢者に対する負担の特例の有無である。日本では,高齢であることを理由とした患者自己負担の減免が行われているが,ドイツ及びフランスでは行われていない。イギリスでは高齢者の患者自己負担が免除されるが,そもそもイギリスは患者自己負担の割合自体が小さい。第3は,患者自己負担とゲートキーパー機能との関係である。ゲートキーパー機能が最も強いのはイギリスであり,病院受診にはGP診療所の紹介が必要である。ドイツやフランスではイギリスほど強くはないが,日本のように病院を直接受診することが一般的なわけではない。患者自己負担は医療制度というシステムの構成要素の一つであり,その国の医療提供体制及び医療財政の仕組み,そしてその背景にある歴史的経緯や経済状況などの様々な要因によって形作られてきた仕組みであるという点に留意する必要がある。

  • 2014年全国消費実態調査個票の分析結果
    橋本 英樹, 徳永 睦
    2021 年 31 巻 1 号 p. 61-70
    発行日: 2021/07/08
    公開日: 2021/07/13
    ジャーナル フリー

    高齢・人口減少社会の持続可能性を議論する際,費用抑制の議論が優先される中,公的皆保険制度の最大の目的である家計破綻の回避と,負担公平性をいかに図るかについての議論を科学的に行う必要が強まっている。しかし近年の状況に関するエビデンスが不足している。本稿では先行研究などに倣い全国消費実態調査2014個票データを用いて,公的医療保険と介護保険の自己負担,より広い保健医療消費支出による家計破綻的影響(catastrophic payment)の状況と,医療費・介護費の負担が世帯の貢献能力を鑑みて公平性が担保されているかどうかを検証することを目的とした。その結果,狭義の医療保険の自己負担が及ぼす家計破綻的影響は限定的ではあるが,より広い保健医療消費支出や介護自己負担を含めた場合,特に支払能力の低い高齢者・要介護世帯では家計破綻的支払は17%程度の世帯に見られることを確認した。また公的医療保険・介護保険の負担公平性は直接税による貢献の累進性が近年回復したことを受けて,公平性は比較的担保されていることを確認した。しかし,自己負担・社会保険料負担の逆進性が強まっている可能性が示唆されたことから,今後高齢世帯などでの自己負担率引き上げや,コロナ禍における消費低迷による間接税貢献の逆進性の増加が及ぼす影響を慎重に考慮する必要があると思われた。

  • 合意形成の効率化
    印南 一路
    2021 年 31 巻 1 号 p. 71-85
    発行日: 2021/07/08
    公開日: 2021/07/13
    ジャーナル フリー

    2020年末,新型コロナ禍の合間を縫って,長年議論されてきた後期高齢者の2割自己負担導入,紹介状なしの大病院外来受診時定額負担の問題が決着した。定率であれ定額であれ,患者自己負担の導入は,国民の負担増加を伴い,かつ医療団体の強い反対が予想される実現困難な改革のはずである。にも拘わらず,これらの課題が決着できた理由は何か。

    この疑問に答えるため,官邸機能強化に関する制度的考察,合意形成のガバナンス(意思決定規律)に関するモデル構築,上記2事例についての事例過程追跡の3つを行った。

    その結果,(1)1994年以来の政治制度改革,省庁と会議体の再編,内閣機能の漸進的強化により,重要政策会議等の閣議決定を用いた官邸主導による合意形成が効率化されたこと,(2)どのような合意形成手段が使われるかは,課題の政治性のレベルに依存するが,課題の政治性のレベルは課題固有の特徴と一致し,特に選挙への影響予想と関係団体の抵抗の強さに依存すること等が示された。

  • 後期高齢者の窓口負担見直しの限界も視野に
    小黒 一正
    2021 年 31 巻 1 号 p. 87-96
    発行日: 2021/07/08
    公開日: 2021/07/13
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルスのパンデミックは,日本や世界に対し,創薬としてのワクチン開発や医療基盤の重要性を改めて認識させた。このため,革新的かつ有用な医薬品開発や医療基盤の強化を図る必要性が一層高まりつつあるが,日本の公的債務残高(対GDP)は200%超で累増が続いており,日本の財政状況は厳しい状況にある。このような状況の中,政府は医療費における75歳以上の窓口負担の引き上げを決定した。今回の政治的決定は,医療保険財政の持続可能性を高める第一歩だが,改革の効果は限定的となる。公的医療保険が担う基本的役割を堅持しつつ,医療財政の持続可能性を高めるためには,年金改革で導入したマクロ経済スライドを参考として,後期高齢者医療制度においても,その診療報酬に自動調整メカニズムを導入することも検討に値する。

  • 医療保険制度の持続可能性を高めるための「三位一体」改革
    中村 洋
    2021 年 31 巻 1 号 p. 97-106
    発行日: 2021/07/08
    公開日: 2021/07/13
    ジャーナル フリー

    ・少子高齢化が進む中,世代間の負担格差の存在と厳しい医療保険財政上の制約から,患者自己負担増の議論は今後も避けられない。さらに,新型コロナウイルス感染拡大の財政的な影響は,今後顕在化する。

    ・患者自己負担が増すと,診療報酬点数について国民・患者への説明責任がより強く問われる。患者視点からの診療報酬体系の見直しで,分かりやすさならびに納得性を高めることが重要となる。見直しが不十分だと,患者・家族からの苦情・問合せ等で,医療現場の業務負担が増えかねない。

    ・患者自己負担増を議論するだけでなく,治療の質を維持・向上しつつ患者自己負担増を軽減する施策を考える必要があり,「賢い選択/節約」の推進に向けた患者へのインセンティブの見直しが求められる。

    ・つまり,政治的に難しい判断が迫られる負担増に対する国民・患者からの理解を得るには,①「患者自己負担増」の議論のみならず,②「診療報酬体系の患者視点での分かりやすさ・納得性の向上」,③「『賢い選択/節約』の推進インセンティブとしての患者自己負担増の軽減」を加えた「三位一体」の改革が必要となる。

    ・上記②,③の具体的な改革の方向性としては,(1)「患者視点での同一サービス同一負担額(診療側の点数は維持)」,(2)「『賢い選択/節約』推進のための患者自己負担率の軽減と軽減幅の明示」,(3)「調整機能としての保険者の負担割合の柔軟化」,(4)「3割負担の柔軟化と患者個人単位での3割上限の維持」,(5)「診療報酬体系の簡素化」が挙げられる。

  • 和田 勝, 堤 修三, 中村 秀一
    2021 年 31 巻 1 号 p. 107-154
    発行日: 2021/07/08
    公開日: 2021/07/13
    ジャーナル フリー
研究ノート
  • 中芝 健太, 橋本 英樹, 古井 祐司
    2021 年 31 巻 1 号 p. 155-164
    発行日: 2021/07/08
    公開日: 2021/07/13
    [早期公開] 公開日: 2021/05/31
    ジャーナル フリー

    企業活動において従業員の健康への投資のあり方を模索する「健康経営」が注目を集めている。しかし,その目的や意義について健康経営の取り組みを行うステークホルダー間で共通見解・統一的定義が存在するわけではない。本研究では,健康経営という概念の背景として,産業保健における健康管理の発展,企業に対する投資の環境整備,保険者による医療費適正化という少なくとも三つの流れがあることを確認したうえで,「健康経営」を巡り行政・民間それぞれのステークホルダーが目指すものと,「健康経営」活動を評価するため提案された既存尺度の測定項目との整合性について考察した。主要な政策的ステークホルダーとして,経済産業省ヘルスケア産業課,厚生労働省保険局ならびに厚生労働省労働基準局を挙げ,それぞれの政策意図と「健康経営」の捉え方を既存資料から解釈した。また,「健康経営」の取り組みを実際に展開する民間・準民間ステークホルダーを政策的ステークホルダーに対応する形で整理し,それぞれの取り組みの性質や目的の違いを描出した。そのうえで,健康経営に関わる主要な評価指標として三つの尺度を取り上げ,測定される項目の異同や解釈について比較検討した。以上の作業を通じて,「健康経営」のコンセプトを意義ある実践につなげるためには,実施主体の目指す価値に応じて「健康経営」の目的を明示的に設定したうえで,評価尺度や評価項目を戦略的に選択・測定・解釈することが必要であると考えられた。

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