医療と社会
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特集 患者自己負担の在り方をめぐる諸問題
日本,ドイツ,フランス,イギリスにおける患者自己負担制度の違いについて
大久保 豪
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2021 年 31 巻 1 号 p. 45-59

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抄録

本稿の目的は,国際比較によって日本の患者自己負担を相対化させ,その特徴を明らかにすることである。比較の対象国として,日本と同様に社会保険方式を採っているドイツ及びフランス,税方式を採っている代表的な国であるイギリスの3ヵ国を選択した。本稿ではまず各国の医療制度(医療提供制度及び医療財政制度)の仕組みと特徴を記述し,その後に患者自己負担について,4ヵ国共通の視点(a.年齢,b.所得,c.疾患・障害,d.高額医療費,e.医薬品,f.入院・外来,g.受診経路)で整理した。4ヵ国を通観した結果,特徴的だったのは第1に患者自己負担の医療政策における重要性の相違である。イギリスは原則無料で,ドイツも患者自己負担に重きを置いてはいない。一方で,日本とフランスは患者自己負担の割合が大きく,その仕組みも複雑である。第2は,高齢者に対する負担の特例の有無である。日本では,高齢であることを理由とした患者自己負担の減免が行われているが,ドイツ及びフランスでは行われていない。イギリスでは高齢者の患者自己負担が免除されるが,そもそもイギリスは患者自己負担の割合自体が小さい。第3は,患者自己負担とゲートキーパー機能との関係である。ゲートキーパー機能が最も強いのはイギリスであり,病院受診にはGP診療所の紹介が必要である。ドイツやフランスではイギリスほど強くはないが,日本のように病院を直接受診することが一般的なわけではない。患者自己負担は医療制度というシステムの構成要素の一つであり,その国の医療提供体制及び医療財政の仕組み,そしてその背景にある歴史的経緯や経済状況などの様々な要因によって形作られてきた仕組みであるという点に留意する必要がある。

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