2021 年 31 巻 1 号 p. 61-70
高齢・人口減少社会の持続可能性を議論する際,費用抑制の議論が優先される中,公的皆保険制度の最大の目的である家計破綻の回避と,負担公平性をいかに図るかについての議論を科学的に行う必要が強まっている。しかし近年の状況に関するエビデンスが不足している。本稿では先行研究などに倣い全国消費実態調査2014個票データを用いて,公的医療保険と介護保険の自己負担,より広い保健医療消費支出による家計破綻的影響(catastrophic payment)の状況と,医療費・介護費の負担が世帯の貢献能力を鑑みて公平性が担保されているかどうかを検証することを目的とした。その結果,狭義の医療保険の自己負担が及ぼす家計破綻的影響は限定的ではあるが,より広い保健医療消費支出や介護自己負担を含めた場合,特に支払能力の低い高齢者・要介護世帯では家計破綻的支払は17%程度の世帯に見られることを確認した。また公的医療保険・介護保険の負担公平性は直接税による貢献の累進性が近年回復したことを受けて,公平性は比較的担保されていることを確認した。しかし,自己負担・社会保険料負担の逆進性が強まっている可能性が示唆されたことから,今後高齢世帯などでの自己負担率引き上げや,コロナ禍における消費低迷による間接税貢献の逆進性の増加が及ぼす影響を慎重に考慮する必要があると思われた。