2021 年 31 巻 2 号 p. 289-301
「主たる診療科」による診療所財務実態への影響状況をしっかりと検証していくことは,財務的根拠に基づく診療報酬改定において極めて重要となる。そこで本研究では,事業利益率をはじめとした6つの財務指標を目的変数,各「主たる診療科」を説明変数とし,資産額規模などのその他の法人属性要因を統制変数とした回帰分析を実施し,各「主たる診療科」が診療所の財務実態に与える影響の有無やその相対的な影響力の違いを明らかにした。
診療所の「主たる診療科」が内科ではなく外科,整形外科,産婦人科,皮膚科であることは,非常に多様な財務側面に対して有意な影響を及ぼしている。すなわち外科,整形外科,産婦人科は,赤字回避含む採算性や不健全性回避含む財務健全性,資産収益性の各財務面において状況が悪い一方,皮膚科は,赤字回避含む採算性や不健全性回避含む財務健全性,資産収益性の各財務面において状況が良い。また小児科は,財務健全性は良いが採算性は悪い。さらに耳鼻咽喉科は,事業採算性や資産収益性という利益率において良い状況である一方,資産の利用効率性だけは状況が悪い。加えて眼科は,赤字回避の観点からの採算性や財務健全性,資産利用効率性において,状況が悪い。なお精神科はどの財務側面に対しても良くも悪くも有意な影響を及ぼしていない。