医療と社会
Online ISSN : 1883-4477
Print ISSN : 0916-9202
ISSN-L : 0916-9202
早期公開論文
早期公開論文の4件中1~4を表示しています
  • 有澤 和代
    論文ID: 2025.003
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/07/30
    ジャーナル フリー 早期公開

    研究データの二次利用には,データ利用に対する研究対象者の信頼の確保が課題となるが,日本において研究対象者の信頼を担保する仕組みとして機能しているインフォームド・コンセントでは,医学研究に参加することへの同意と,個人情報の第三者提供の同意が区分されていない。沿革的に異なる両者を区分しないことは,一次利用における研究対象者の同意が個人情報の第三者提供の同意までしたと言えるか,疑義を生じさせないか。

    本稿では,研究参加の同意と個人情報の第三者提供の同意の沿革及び各国の制度から,個人情報に関する同意を研究参加の同意に含意することの適否を検討する。そして,企業が学術研究機関等から要配慮個人情報を含む人の健康・医療データの提供を受けて製品やサービスの開発を目的として当該データを二次的に利用する事例を念頭に置き,個人情報保護と研究データの利活用の均衡の観点から,諸外国の法制度を参考に,日本の現行法令下での対応策を考察する。

  • 足立 泰美, 木下 祐輔
    論文ID: 2025.005
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/07/30
    ジャーナル フリー 早期公開

    本稿では,全国健康保険協会兵庫支部の協力を得て,当協会に加入する中小規模の事業所および従業者を対象に実施したアンケート調査結果を用いて,新型コロナウイルス感染症(以後,COVID-19とする)禍における全事業所,中でも社会保障関連業に勤務している従事者を対象に,職場環境の変化と仕事へのストレスおよび離職・転職意向との関係を実証的に明らかにした。推計結果から,全事業分野の従事者における職場環境の変化と仕事で感じるストレスとの関係では,COVID-19以前とCOVID-19流行初期で共通して,自分への評価や処遇に対する納得感が低いほど仕事へのストレスが高まる要因になっている。加えて,COVID-19流行初期では,担当する仕事の量や仕事の成果に対する要求が従事者のストレスの悪化を招くことが示唆される。COVID-19流行初期と3年前のCOVID-19以前と比較した場合には,担当している仕事の量,仕事の成果に対する要求,仕事で求められる能力や知識,仲間と協力しあう雰囲気がストレスを高める要因となっていることが明らかとなった。また,全事業分野の従事者と比べ社会保障関連業従事者は,COVID-19流行初期では仕事の成果に対する要求や仕事で求められる能力や知識で異なる傾向が認められた。 COVID-19以前と比較した場合には,全事業分野の従事者と比べ社会保障関連業従事者において,労働時間や部下や後輩を育てようという雰囲気が仕事のストレスを高める要因になっていることが示された。中でも,医療従事者は労働時間,自らの裁量の範囲,ならびに部下や後輩を育てようという雰囲気で,保育従事者は担当する仕事の量で,仕事へのストレスにつながっていることが統計的に明らかとなったが,介護従事者では有意な傾向は認められなかった。職場環境の変化と離職・転職意向との関係では,COVID-19以前では仕事の分担・役割の不明確さが,COVID-19流行初期では仲間との人間関係が,離職・転職意向を招いており,COVID-19以前とCOVID-19流行初期で共通して認められる傾向としては,現在感じている仕事のストレスや自分への評価や処遇への納得感が離職・転職意向の要因であることが示された。全事業分野の従事者と比べ社会保障関連業従事者の特徴としては,COVID-19以前は仕事に対する責任で,COVID-19流行初期では部下や後輩を育成しようという雰囲気で,離職・転職意向の要因となっていることが示された。したがって,社会保障に関連する現場では,資金・人材といった限られた経営資源の中で雇用確保対策を検討する上で,業務責任,業務評価,人材育成に配慮した施策の検討を行うことが重要であることが示唆される。

  • 中島 龍彦, 縄手 雪恵, 山本 哲也
    論文ID: 2025.004
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー 早期公開

    【目的】

    地域在住の通所サービス利用高齢者を対象とし,認知機能別の「緑茶」に関与する嗅覚機能の傾向を明らかにする。

    【方法】

    対象者115名をMini-Mental State Examination-Japaneseをもとに正常群46名,軽度認知機能障害(MCI)群33名,認知機能低下群36名の3群に分類し,カード型嗅覚同定検査(OE),「独自の日常のにおい自覚アンケート」のOEに関する12嗅素の自覚率,抑うつ検査(GDS)をχ2独立性検定,ロジスティック回帰分析,Spearmanの順位相関係数,Kruskal-Wallis検定を用いて比較検討した。

    【結果】

    認知機能低下群は,正常群,MCI群と比較してOEの総得点,OEの正答率,OEに関する12嗅素の自覚率が有意に低かった。OEの正解数と不正解数の乖離において,認知機能低下群は全項目で不正解数が正解数を上回る結果となり,特に「緑茶」の成分に類似したみかん(リナロール)とバラ(ゲラニオール)についての乖離が大きく,みかんのオッズ比が著しく高かった。またMMSE-Jは,OEの香水(リナロール,ゲラニオール),みかんに僅かな関連性があることが示された。

    【結論】

    正常群は,加齢にて「緑茶」の香りに関与する嗅覚が低下を示した。MCI群は,認知機能が若干低下しているが正常群と同様であった。正常群は,「緑茶」を用いた嗅覚刺激の試みに今後期待できるが,「緑茶」の香りと認知機能の関連報告が確認できないため,MCI群では手法および効果に関する検証が必要となる。一方認知機能低下群は,「緑茶」の香りに関与する嗅覚の著しい低下を示した。このため,MCI群同様に,嗅覚を刺激する取り組みの効果検証が今後の課題となる。

  • 看護の視点からの考察
    髙橋 佳子, 神里 彩子
    論文ID: 2025.002
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/07/16
    ジャーナル フリー 早期公開

    ヒト中絶胎児組織は,増殖能が高いという特徴から,ES細胞やiPS細胞等,多能性幹細胞の登場以降も,新型コロナワクチン等感染症のワクチン開発,ヒト化マウスの作成やヒトの発生研究等の基礎的研究に多く用いられ,必要不可欠なマテリアルとされている。胎児組織は主として望まない妊娠をした女性が受ける「人工妊娠中絶(以下,中絶)」によって得られるものであることから,提供する女性が,提供したことで新たに傷を負うことや,後々後悔の念で苦しむことは避けなければならない。実際に提供した女性はどのような心理状態となり,それに対してどのような支援がされているのか,海外からのわずかな調査報告はあるものの,日本からの報告は見当たらない。そこで,どのような支援が必要であるのか,先行研究をもとに看護の視点からの考察を試みた。

    日本では,中絶自体をタブー視する社会的風潮もあり,また医療現場においても十分な支援が行われていない状況であった。医療現場において中絶を受ける女性の特徴を踏まえた支援を充実させることに加え,研究者側又は学会等における「中絶を受ける女性の心理状態を理解し,その女性の状況や反応に合わせ,胎児組織の利用研究について説明できる者(胎児組織研究コーディネーター)」の養成,胎児組織研究コーディネーターと医療現場との連携(対象者の選定,説明時に看護者が同席することとその後のフォロー,振り返り等),術後も含めたフォロー体制の整備の必要性が確認された。

feedback
Top