医療と社会
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アメリカにおける医療の変容と物理工学
スタンフォード大学における放射線医学とヴァリアン・アソシエイツ,1948-1980
上山 隆大
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2000 年 10 巻 3 号 p. 1-26

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抄録

高度に発達する科学技術に対して人々が抱きがちな,期待と不安のアンビバレントな思いはとりわけ現代医療の分野で明瞭である。患者はX線断層装置のような最先端技術の恩恵を歓迎しながらも,それがパーソナルな治療のあり方を阻害するのではと恐れている。また医師の側も,これまで臨床経験によって積み上げてきた診断と治療が,機械と器具に安易に取って代わられることに複雑な思いを抱いている。一方で,ますます高度化する医療の機械・技術は,単なる科学の理論を離れ,大学や病院の外の機械メーカーなどの産業界との結びつきなしには実現し得ないものとなってきている。このような高度技術は,現代医療の現場にどのようにして持ち込まれるようになったのであろうか。また,それは医療の現場をどのように変えていったのであろうか。
この小論は,スタンフォード大学病院が1960年代にホジキン病などのガン治療のために導入した新技術, Micrwave Linear Accelerator(Clinac)をケーススタディーとして, アメリカの先端医療技術が社会化されてきた実態を検証している。Clinacは,スタンフォードの放射線医学の主任教授であったDr.Henry Kaplanが, 物理学の教授Edward Ginztonと現在シリコン・バレーをリードする巨大電機企業となったVarian Associatesと共同で開発し導入した,放射線ガン治療機械であった。Varian AssociatesはGinzton教授とSig. Varianが創設したベンチャー企業であり, この産学協同の形式が医療の現場を新しい技術によって変革していった。スタンフォード大学とサンフランシスコ大バークレー校に残る,Clinacをめくる資料を分析することで,戦後のアメリカ医療のあり方が, ベッドサイド中心の臨床医学から, 巨大な病院施設のなかで, 工学・生物学・物理学たどの隣接領域との密接な連携をともなる研究中心の医療へと変質していった様子を歴史的に検証している。

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