医療と社会
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生存時間分析を用いた入院医療需要の影響要因分析
「椎間板障害」に対する一適用例
菅原 琢磨
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2001 年 11 巻 2 号 p. 51-70

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抄録
効果的な医療費適正化策の立案,実行のためには医療資源消費の構造あるいは医療需要の決定要因について詳細かつ厳密な情報の蓄積が不可欠である。しかしわが国ではこのような目的に十分応えうるデータセットは未だ不備な状況にあるといえ,問題の社会的重要性に比して十分な研究が制約される大きな要因となっている。社会医療診療行為別調査をはじめ,医療資源消費の情報の蓄積を図ってきた既存の大規模ミクロデータは,全国を網羅し,経年的,系統的に情報が蓄積されている点できわめて魅力的であるが,調査期間が短期間(通常1か月)に限定されるため,患者の受療開始から終了までのエピソードの構成が難しく,患者情報のフォローアップが不完全な「打ち切りデータ(censored data) 」が多量に発生するという分析上の問題を有している。これらの打ち切りデータを除外すると相対的に治療期間の短いサンプルに偏るため,分析結果にバイアスが生じる可能性がある。
本稿では以上の問題に対する一試みとして,平成7年-平成9年の「医療給付受給者状況調査」のミクロデータから政府管掌健康保険の加入者で「椎間板障害」による入院サンプルを抽出し, 特に臨床医学統計等において打切りデータを扱う際に頻用される生存時間分析(survival analysis)を適用し,入院期間として顕在化される入院医療需要の影響要因について分析をおこなった。分析の結果,入院自己負担率が1割の被保険者本人の平均入院期間が14.2日であったのに対し,負担率2割の被扶養者は8.6日となり,両群の入院継続関数の分布には統計的に有意な差が確認された。さらに被保険者本人・被扶養者の別,診療所・病院の入院先の別,レセプト傷病数等が患者の退院行動に有意な影響を与えていることが示された。また打ち切りを多数含むこのようなミクロ・レベルデータを用いた医療資源消費の分析について,本稿で適用した生存時間分析の解析手法が有効であることが示唆された。
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