医療と社会
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医薬品の産業組織:薬価規制の経済的効果
南部 鶴彦
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1997 年 7 巻 1 号 p. 3-15

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抄録

日本の医薬品産業の産業組織を分析するにあたっては, まず自由な競争市場で薬が供給されるとき, どのような産業の組織が形成されるかを分析し, 次に日本の固有な制度的条件が, これに対してどのような影響を与えているかを, 明示的にしていくことが一つの接近方法として有効だと思われる。
この論文では, アメリカを実例として念頭に置きながら, 基準薬価制度が産業組織に与える影響を順次検討した。
まず第一に, 製薬業を特徴づける研究開発に着目したとき, 日本の新薬への薬価政策は, 真に革新的な新薬でなく,類似新薬への研究開発へとバイアスを与える,それは研究開発上のリスクの側面だけでなく, 定期的に改定される薬価基準そのものがこのような行動をもたらす原因となっている。
第二には,医薬品の流通における効率性の問題がある。薬は財としては,“reputation goods”の性格を持つ。そこでは説得的な情報提供が純粋の情報提供とともに重要である。薬価差の存在は,このような財の特性から,特に流通コストを上昇させる効果を持っている。
第三には, 薬価差の存在を背景として, 医師の品質と価格との選択が大きなバイアスを持つ可能性がある。つまり価格については考慮を払わず高品質の改良型新薬へ次々とスウィッチしていくことにより,薬剤の選択が資源の浪費をもたらしている可能性が高い。

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