医療と社会
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医薬品産業における「製造承認」共同取得の戦略的意義
桑嶋 健一松尾 隆
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1997 年 7 巻 3 号 p. 134-149

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抄録

本稿は,医薬品産業におけるイノベーションの成果としての新薬(新有効成分含有医薬品:NCE)が企業業績に与える影響を,新薬を承認形態によって分類した上で分析し,考察を加えることを目的としている。この目的に基づいて,日本の主要製薬企業20社を対象とし,1976年から1996年までの21年間のデータを用いて分析を行った結果,主に以下のような結果が得られた。
(1)製造承認数を説明変数とし,同期間の企業ごとの累積営業利益を被説明変数として回帰分析を行った結果,既存研究と同様に製造承認数によって営業利益を説明することができた。
(2)しかし,利益額は売上高という規模を表す変数によってかなり説明されてしまうため,営業利益率を被説明変数とし,製造承認数を説明変数として回帰分析を行ったところ,統計的に意味のある回帰モデルにはならなかった。
(3) そこで,営業利益率を被説明変数とし,説明変数である製造承認,輸入承認を単独取得と共同取得とでさらに分類して分析を行った結果,統計的に意味のある回帰モデルとなった。しかも,回帰係数で意味のあるのは,製造承認を共同で取得しているものだけであった。
このように共同承認が企業の利益率に正の影響を与える理由としては,研究・臨床試験・製造に関わるコストの低減やフレキシビリティの確保,共同販売による販路拡大などのメリットを享受できるということが考えられる。本稿における分析結果を前提とした場合,製薬企業は共同戦略(collaborative strategy)をとった方が業績が良くなることになるが,現実には,全ての企業が共同戦略を利用しているわけではない。共同戦略の採用を阻害する要因としては,NIH症候群やコア能力の欠如といったものがあげられる。

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