抄録
症例は60才の女性である. 40才より, 四肢末端の肥大, 声変りを来し, 42才には閉経した. 1982年7月に胸部レ線上異常陰影をいわれ, 9月に入院した. 入院時, 末端の肥大, 甲状腺腫, 乳房より乳汁漏出をみた. 検査では, 血中成長ホルモン(GH)71.5ng/ml, プロラクチン(PRL)350.6ng/mlと異常高値をみたが, カルシトニンは正常内にとどまつた. 入院後の諸精査にて, 下垂体腫瘍(腺腫の疑い)と甲状腺の悪性腫瘍が考えられた. 1983年1月と2月に各々甲状腺と下垂体の摘出手術を施行した. 血中のGHとPRLは, 下垂体の手術後に著明に低下した. 組織所見は, 下垂体の色素嫌性腺腫と甲状腺の濾胞腺癌であつた. PAP (peroxidase antiperoxidase)法にて下垂体についてGHとPRLを染色したところ, 両者とも腫瘍細胞の一部の細胞質と細胞膜が陽性を示した. このような症例は, 1982年までに5例の報告をみるのみであり, ここに報告すると共に若干の検討を加えた.