1990 年 44 巻 2 号 p. 178-181
症例は38才の女性で, 来院2日前に無痛性の右乳のしこりに気づいた. 診察にて右乳上外側に径約5cmの可動性のある卵型の硬い腫瘤を認めた. 乳房撮影と超音波検査では卵型のくびれのある平滑な腫瘤陰影で, 通常の乳癌の所見とは異なつていた. 針生検でリンパ肉腫が疑われた. ガリウムシンチで腫瘤部のみに高い集積がみられ, 血液理化学検査ではLDHが軽度上昇していた. 手術はPatey式乳房切断術を行い, 摘出リンパ節は組織的に転移はなかつた. 病期検索は胸写, 全身CT, 骨シンチ, 肝超音波, 骨髄穿刺, 消化管造影, 耳鼻科的検査を行いすべてに異常を認めなかつた. 術後は, epi-VEPA療法(epi-ADM 50mg, CPA 500mg, VCR 1 mg, PDN 40mg 4日間)を1カ月に3回, その後外来にて月1回を6回施行した. 症例は術後1年半の現在健在である. 乳腺リンパ腫の診断上の留意点と, この症例の予後について考察した.