1997 年 51 巻 8 号 p. 362-366
72歳で発症したMachado-Joseph病(MJD)の孤発例を経験した. 本例は, 変異遺伝子の発症機序を考察する上で重要な症例と考えられるので報告する.
症例は, 77歳男性で72歳より歩行障害で発症. 失調性歩行, 体幹と下肢に強い運動失調を呈し, 知能は正常であった. 右眼瞼の下垂があり, 眼球運動に制限はないが, 注視方向性眼振をみとめた, 深部腱反射は軽度に亢進し, Babinski徴候が陽性であった. しかし, 痙縮や感覚障害はなかった.
頭部MRIでは, 小脳と脳幹の萎縮がみられ, 特に橋被蓋部の萎縮が顕著であった. 以上より, MJDを疑ったものの, 家族歴がなく, かっ, 高齢であることから確診に至らなかった.
DNA遺伝子解析では, MJD遺伝子のCAG繰り返し数が59と増加していた. この伸張数は, 既報のMJD症例中最少であった. このことは, 本家系内に伝えられてきた遺伝子異常が, 高齢の本例において始めて発症の閾値をこえたものと推測された.