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法制度からみた精神保健福祉の変遷
―精神保健福祉法の制定の背景を探る―
吉川 武彦
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1998 年 52 巻 4 号 p. 219-225

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抄録

1900年(明治33)から1997年(平成9年)までのほぼ100年間に, わが国の精神保健福祉がどのように変遷したかを述べる.
1900年に制定された『精神病者監護法』では, 自宅に精神障害者を監置することを合法化し, 1919年(大正8)の『精神病院法』では, 精神障害者の入院治療を促進することとなった.
第2次世界大戦終了後5年をへた1950年(昭和25)には, 『精神衛生法』が制定され, 精神病者監護法および精神病院法は, その役割を終えた.
1952年(昭和27)には, 国は国立精神衛生研究所を設置し, 精神障害の発生予防と国民の精神衛生の向上にかかる研究体制を整備した. 1954年(昭和29)に, 第1回全国精神衛生実態調査を行い, 全国の精神障害者は130万人であると推計した. 1963年(昭和38)の第2回全国精神衛生実態調査では, 精神障害者は124万人と推計したが, その80%はリハビリテーションによって, 社会復帰することが可能であるとした.
これを受けて, 1965年(昭和40)に精神衛生法の改正が行われ, 精神障害者の在宅治療が行われるようになった. この年, 国立精神衛生研究所に社会復帰部が設置され, それまで行ってきた精神障害者リハビリテーション研究が進展することになった.
22年後の1987年(昭和62)に精神衛生法を改正し, 『精神保健法』が制定されたのであった. この法改正は, (1) 国民の精神健康の保持と増進, (2) 精神障害者の人権保護, (3) 精神障害者リハビリテーションの促進をテーマとしたものであった. これによって精神障害者社会復帰施設が法定化し, 「精神病院から社会復帰施設へ」という流れをつくることになった. それとともに国民は, 社会復帰しようとする精神障害者に協力する義務を負うことになった. 人権保護の面では, 精神障害者の自己判断を尊重してインフォームド・コンセントを重視する一方, 精神医療審査会が設置されて不適切な処遇を受けた精神障害者が, 自身で訴えることができるようになった.
この間に, わが国の厚生省に設置されている公衆衛生審議会の, 「地域精神保健対策に関する中間意見」, 「処遇困難患者に関する中間意見」, 「今後における精神保健対策について」を踏まえて, 1993年(平成5)に精神保健法の改正が行なわれた. この改正では精神障害者を「社会復帰施設から地域社会へ」という流れをつくることになり, 精神障害者のリハビリテーションがいっそう推進されることになった. ただ問題なのは「国民の精神健康の保持や増進をはかる」という面が相対的に後退したことであろう.
1993年には『障害者基本法』が成立し, 精神障害者を障害者と明定し, 保健・医療施策ばかりでなく福祉施策にも重点をおくことになった. これを受けて, 1995年(平成7)には精神保健法が大改正され, 『精神保健および精神障害者福祉に関する法律(通称, 精神保健福祉法)』となった. この間の1994年(平成6)には, 「地域保健法」が成立している.
このように, 精神障害者を地域ケアするという公的処遇の方向がみえてきたが, これを支えるには精神保健・精神科医療・精神障害者福祉が互いに, いい関係を保たなければならない. その意味では, これからの精神保健福祉では, “救急”が問題となろう. 精神科救急の特性として, 「メディカルイマージェンシイ」と「ソーシャルイマージェンシイ」の2者があるように思うが, これらは, 今後取り組まれるべき問題である.

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© 一般社団法人国立医療学会
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