抄録
乳房の顆粒細胞腫は比較的まれな腫瘍である. 我々はその1例を経験したので報告する. 症例は32歳の女性, 右乳房に腫瘤を自覚し1年後に増大傾向を認めたため受診, 右乳房外上(C)領域に2×2cm大の皮膚の陥凹を伴う硬結を1個触知したが, 所属リンパ節は触知しなかった. 乳腺超音波検査では乳癌を疑われた. 穿刺吸引細胞診を施行し異型細胞を認めなかったが, 乳癌が否定できず腫瘤摘出術を行った.
ヘマトキシリンエオジン(以後H. E.)染色で腫瘍は胞体の豊富な大型の細胞よりなり, PAS陽性の顆粒を持ち, 核分裂像は認められず, 異型性も無かった. 胞体内の顆粒はS-100蛋白, neuron specific enolaseが陽性であり, 良性顆粒細胞腫と診断された, 術後経過は良好で, 12年間再発も無く健在である. 乳房の顆粒細胞腫はまれな疾患であるが, 文献的にも術前の臨床的診断で乳癌を疑われている例が多く注意が必要である. また良性例が大部分を占めるが少数の悪性や遠隔転移を起こした症例も報告されている.