抄録
頭膵十二指腸切除後の重篤な合併症の1つは膵空腸縫合不全であり, その発生頻度は尾側膵の状態と関係し, 非線維化例では頻度が高い. したがって, 確実な術式が必要となり, これまで端側吻合による膵管嵌入法と膵管粘膜縫合法が行われてきた. しかし, 膵管嵌入法では縫合不全の発生頻度は多く, そのため尾側膵の線維化に関係なく膵管粘膜縫合法のみが広く行われるようになった. 膵管空腸粘膜縫合法の要点は, (1) 膵切離では断端からの出血は確実に止血する, (2) 約3週間は全膵液を体外にドレナージする, (3) 膵管粘膜縫合では膵実質を拾うように膵管に深く針を刺入する, (4) 2層目の縫合では空腸壁で膵断端を完全に被覆する, (5) 腹腔内に漏出した膵液を体外に誘導するためにドレーンを適切に留置する, などである. 膵管粘膜縫合法のみの施行により, 縫合不全の発生頻度は減少した. 膵管粘膜縫合法は致命的な合併症を回避できる優れた吻合術式であると思われた.