抄録
シアル酸は糖蛋白や糖脂質の糖鎖末端に存在する炭素9個の酸性糖で, シアル酸を含む糖鎖は細胞間認識や細胞と病原体の認識に関与することが知られている.哺乳類において最も代表的なシアル酸はN-アセチルノイラミン酸とN-グライコリルノイラミン酸(NeuGc)である. NeuGcはヒトとニワトリ以外の動物には存在するが, ヒトおよびニワトリの正常組織には存在せず, 強い免疫原性を有することが知られている. 従来から知られている胎児性癌抗原などの癌抗原とは異なる腫瘍関連抗原として注目されるようになった. 本研究では, 糖脂質型NeuGcを認識する抗NeuGcニワトリモノクローナル抗体(HU/Ch6-1)と糖脂質型および糖蛋白型の両NeuGcを認識する抗体(HU/Ch2-7)を利用し, 免疫組織染色法による肝細胞癌におけるNeuGcの発現解析を行った.
その結果, 肝細胞癌患者から手術摘出された肝細胞癌組織37例中17例(45.9%)に糖脂質型NeuGcの発現が認められた. 肝細胞癌患者血清中で高頻度(67.6%)にNeuGc抗体(IgMまたはIgG)の上昇が確認された. これらの抗体は肝細胞癌細胞に発現したNeuGcの刺激によるものと思われる. NeuGc抗体(IgMまたはIgG)とAFP, PIVKA-II値との相関は認められなかった. 血清中NeuGc抗体(IgGまたはIgM)の測定が肝細胞癌の腫瘍マーカーであるAFPおよびPIVKA-IIと同様に肝細胞癌の腫瘍マーカーとして有用である可能性が示唆された.