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筋ジストロフィーの臨床現場における歯科学的問題
松村 剛
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2007 年 61 巻 12 号 p. 781-785

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抄録

筋ジストロフィー: progressive muscular dystrophy (PMD)では, 口腔咽頭筋障害による口唇閉鎖不全, 咀嚼力低下, 顎関節脱臼・拘縮・開口障害, 軟口蓋閉鎖不全, 嚥下障害などに加え, 巨舌や舌萎縮, 歯列不整や開咬, 高口蓋などの解剖学的異常が高頻度に認められ, 病型や発症年齢などで特徴を異にする. これらの異常は, 摂食嚥下機能障害や構音障害だけでなく, 丸呑みによる窒息の危険, 開口による非侵襲的呼吸管理時のエアリーク増大, 巨舌や開口障害による吸引や急変時処置困難などさまざまな影響を及ぼす. また, 運動機能の低下や歯列不整, 開口障害・巨舌などは口腔ケアを困難にするため, 筋ジストロフィーでは歯垢残存や舌苔が多く, う歯や歯周病, 誤嚥性肺炎のリスク要因となる. 歯科治療においては, アクセスの困難さに加え, 体幹筋力低下や変形による適切な治療姿勢保持困難, 開口障害や巨舌による視野確保・アプローチ困難などがある. また, 嚥下機能障害や呼吸不全, 心不全患者では処置中の誤嚥・窒息, 呼吸状態悪化, 麻酔薬中のエピネフリンによる不整脈誘発などが懸念され, 慎重なモニタリングと急変時への対応を準備して行う必要がある. これまで, 歯科学的問題に関する医科医療者の関心は十分とは言えなかったが, 医療技術の進歩により延命化が図られてきた現在, この問題が生活の質: quality of life (QOL)や生命予後に与える影響は小さくない. 適切な機能訓練や治療的介入, 定期的口腔検診などにより改善できる余地は大きいと思われ, 医科医療者と歯科医療者が連携して対処することが重要と考える.

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