国際ジェンダー学会誌
Online ISSN : 2434-0014
Print ISSN : 1348-7337
ケアの記憶の語りによる母親言説からの脱出
――障害のある息子を育てる母親との対話事例――
沼田 あや子
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キーワード: 母親, ケアの記憶, 言説, 対話
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2022 年 20 巻 p. 124-143

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抄録

障害のある子をケアする母親は,たとえ違和感をもっていても社会で形成されたケアする母親言説に囚われやすい。本研究は,ケアする母親言説から抜け出すような言葉が対話を通して生成される際の鍵となる概念を考察するものである。発達障害のある子と暮らすなかで自分を責めて自信をもてずにいる母親1名に対し,対話形式のインタビューをおこなったところ,従来の研究では分析対象とならなかった新しい言葉が聞かれた。この対話を「ケアする母親言説から脱する言葉が生成された対話事例」として分析したところ,「違和感の語り」,「怒りの語り」,「脱出の語り」というシークエンスが見られた。新しい言葉の契機となったのは,語る人固有のケアの記憶であることがわかった。対話において,ケアの記憶に喚起されながらケアについて語ることが,ケアする母親言説の外に抜け出す鍵概念であることを提示した。

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© 2022 国際ジェンダー学会
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